野田新代表は民主党の死に水を取れるのか

今日の午後、菅首相の退陣表明を受けて、民主党の新しい代表が選ばれた。結果は意外にも野田佳彦財務大臣で、はっきり言って財務相時代に特に目立った実績を残していない人である。

この野田議員がどのような経緯で選ばれたのかという細かな話は他所に譲るとして、今回の党代表を選ぶという選挙は、実は新しい日本の総理大臣を選ぶことはもちろん、民主党の最後の総理大臣となる可能性を秘めていることを忘れてはならない。

つまり、野田新政権は衆議院の解散を行う可能性が鳩山〜菅政権時代よりも高く、総選挙の結果民主党は惨敗し政権を明け渡す可能性が高いのである。

何故かというと衆議院の任期は4年なので2013年の8月頃までがその任期ではあるが、任期ギリギリまで政権を保たせると大抵失敗することは三木や麻生政権を見ても明らかな事実であり、野田が早期退陣するとしても早期退陣した首相に代わって選挙を指揮し勝利に結びつけることの出来るスーパーパワーの持ち主など今の民主党にいるわけもなく、基本的に野田がしくじったら心中するしか道が残されていないからである。

さて、今回の野田財務相の総理大臣への横滑りとも言うべき結果に対して、2009年の政権交代を応援してきたこのブログとしても一応は意見を表明するべきだろうと思い今回のブログ更新となった。

まず目につくのは、今回野田を代表に選んだ民主党議員たちの見識のなさである。菅首相に退陣を公然と迫りながら、その重要閣僚を次の代表に選ぶということ自体、これは政策論争ではなくただの権力争いであることを如実に表している。それは例えば野田の代表選挙演説に現在危急の案件とされている原発問題に関する意見がまるでなかったことにも明らかである。

また、相変わらずの「反小沢」」ぶりも、情けないを通り越して目を覆わんばかりの破廉恥さが見えた。一体全体、彼らの「反小沢」の根拠は一体何であるのか、一度たりとて明確に説明されたことなどないのである。これは、報道が一斉に「反小沢」の合唱を行うとき、その流れに逆らう場所にいると自分まで巻き込まれてしまうというおおよそ国会議員にあるまじき行動原理によるものであり、その結果起こる自分の選挙区での有権者離れを畏れているからだろうと容易に推察できる。

そのような情けない性根の議員たちであるから、菅政権で失敗した原因の究明も総括も行わず、そのままダラダラと反小沢で結集し、菅政権の重要閣僚を代表に選ぶという愚行さえも厚顔無恥に行えてしまうわけである。

もう一つ、外の世界を知らない無菌室で純粋培養された松下政経塾系議員たちが今回とった行動は、この代表選挙が東アジアの覇権を賭けた重要な選挙であることに恐ろしく無頓着であるか、知っていて無視しているのかのどちらかであり、これは日本という国の国益を損ねるほどの犯罪行為を働いているに等しいのである。

ケビン・メア著「決断できない日本(文春新書)」等を読めば一目瞭然であるが、米国が日本に期待しているのは、崩壊する米国の財政支出を肩代わりすることと、東アジア圏に於ける中国覇権への対抗手段の礎となることである。つまり米国は日本が独自に東アジア外交を行うことに神経を尖らせている。中国やロシアと友好関係を結ぶことは現在の米国覇権を損なうことになると畏れているのである。

小沢=鳩山ラインは正に「東アジア共同体構想」と銘打った思想を正面に掲げ、これが米国の顰蹙をかったことは先のメアの本にも明らかにされている。鳩山退陣後に出来た菅政権が「東アジア共同体構想」を反古にしまったく触れなかったことは紛れもない事実であり、菅は政権維持のため米国にアジア覇権を売り飛ばすことを厭わなかったわけだ。

今日投票の行われた代表選挙でも、小沢=鳩山ラインが推す海江田が中国通であり、この「東アジア共同体構想」を再び口に出したことは、米国とズブズブに懇ろになっている議員たちを再びパニックに落とし込んだことは想像に難くない。

そのような議員たちが選んだ、菅政権という旧態依然の従米隷属政権から横滑りしてきた新代表を掲げることになる民主党という政党は、これから急速に死に向かうだろう。菅政権でどん底まで墜ちた政党支持率は回復することもなく、多くの国民の期待を裏切ったまま解散総選挙を迎えることになることは必然となる。そしてそれまでの期間、日本はさらに経済的に没落を続けることとなる。

小沢一郎はこの程度のことは十分承知であろうから、年末に向けて新党という選択肢を考慮することになるだろう。しかしながら、もはや小沢自身にそうした破壊と再構築というパワーを一人でこなす余力も期待できず、ひょっとするとこのまま水沢に消えることになるのかもしれない。

どちらにせよ、今日の野田代表の誕生で民主党の死は確実となった。2009年の輝きは二度と戻ることはなく、多くの民主党議員たちは訳もわからぬままに次の選挙で落選していくことだろう。そして、日本は増税による景気悪化と天井知らずの円高によって産業も崩壊し、福島の事故原発の収束も来世紀まで持ち越されることとなる。

こうした事態の責任は今回野田何ぞを選んだ民主党議員たちにあるわけだが、小沢一郎がよく言うように「国民のレベルを超える政治家はでない」のである。つまり、現状の日本人は菅の後に野田を選ぶレベルであるということだ。これは甚だ悲観的である一方、いわれてみると納得できる理屈である。

さあ、果たして野田は民主党の死に水をとることになるのかどうか、小沢新党に期待をしつつ、シニカルに見守ることにしようと思う。

無料アクセス解析

亀井静香劇場が開幕していますよ、っと。

6月2日に採決のあった内閣不信任案は、菅首相が辞めると約束したということで否決となったのだが、菅首相は辞める気配もないどころかますます首相続投に意欲を燃やしているようである。この裏事情には色々な憶測があるけれど、結局は人のいい鳩山前首相がまんまと嵌められたということだろう。

魑魅魍魎の跋扈する政界ではいかにも起こりそうなことであり、しかも人格障害としか言い様のない菅直人のことなので、例え総理大臣という役職にあってもその地位に相応しい振る舞いなど元から期待できるわけもなく、さもありなんという感想である。そんなことよりも、その結果何が起こったのかを観察する方がずっと興味深い。

当初は不信任案が否決されたことを前面に出していた岡田幹事長や枝野官房長官らが、一夜明けると首相退陣を前提に話を進めるようになり始めた。これは結局のところ、震災対応した第2次補正予算案の参議院通過と引き替えに、菅首相を辞任させるという進路を取り始めたという訳である。

同時に、次の首相候補に野田財務大臣の名前がマスコミを賑わせることになった。これまで地味で存在感の薄かった野田財務相としては初めて檜舞台に躍り出た感じである。因みに、野田財務相自身は総裁選に立候補する意向を述べはしたが、それは首相候補として騒がれだして以降のことである。つまり、次期首相として野田財務相の名前はマスコミにリークされた訳だ。もちろんこれはリークした側の戦略があってマスコミは利用されているのだが、相変わらずマスコミはそれを有り難そうに報じているだけの話である。

一方で菅首相はますます総理大臣の椅子に固執し始めたようである。自分の首を賭けて第2次補正予算案を通過されては堪らないから1.5次補正と呼び方を変えた。姑息さもここまでくると笑ってしまうのだが、菅首相はどうやら真剣である。また、仙谷・岡田・枝野らが自分から離れていったことをみて、いきなり再生可能エネルギーを唱え始めた。

これはドイツやイタリアで脱原発運動が起き、社会が原発の未来を否定し始めていることを見据えて乗っかったわけである。昨日6月15日も、再生可能エネルギー勉強会にやってきてスピーチを行い、パネリストの孫正義氏らから絶賛を受けたという*1。こうした最近の菅首相の動きは例えば下記リンク先にある岩上安身氏による飯田哲也氏へのインタビューでもわかるように、脱原発ムーブメントの中心にいる人々の心を揺さぶっているようである。
飯田哲也氏のコメント で漠然とした不安が事実と気が付いた6/11(内容書き出し) みんな楽しくHappy♡がいい♪ブログ様

菅首相といえば、昨年の参議院選挙前では消費税増税を口走って失敗し、代表選の時は「一に雇用二に雇用」を連発し、その後TPPに注力するかと思えばいつの間にやらそれら全てをまったく忘れてしまったかのような責任感のなさが身上で、この一年間というもの、自身の支持率に効果がないと分かるとさっさと次の案件に首を突っ込むだけだった訳である。

だから、再生可能エネルギーへの傾注具合もそれが保身に効果がないと分かるとさっさと忘れ去るだろうと思うのだが、一方で脱原発派の人々も菅首相再生可能エネルギーにやる気を見せているので、取り敢えず総理大臣職にあるうちに電力の買い取り法案だけでも通させようと狙っているようである。

現在は菅首相は総理大臣を辞めないし、閣僚は菅首相を下ろしたいし、脱原発派の人々は菅が総理でいる間に電力の買い取り法案を通させようとしている。自民党は鳩山前首相が菅首相辞任を約束したと同時に不信任案を取り下げるべきだったのに強行してしまったおかげで、今国会は不信任案を出せないという痛恨のミスを犯しているので、参議院での問責決議案という強制力のない決議案しか切り札がない*2

こうした表面上の動きとは別に、今政府が熱心に動いているのが実は増税案である。本来菅首相のミッションは消費税でも所得税でも何でもいいから増税を行うことであった。しかし菅首相では力不足であり、自身の保身ばかりしているのでなかなか増税へリーチをかけられない。そこで菅を替えてしまおうというのが、不信任案否決後の民主党執行部の本当の意図だろうと思う。野田財務相など増税に躍起になっている財務省のお墨付きである。

実は、仙谷・岡田・枝野が離れていった菅首相にとって、今最も知恵袋的な役割を担っているのが亀井静香であるようだ。不信任案決議の前日、鳩山前首相の前に菅首相と会談し「断腸の思いで辞任を勧めた」と言ったとされる亀井静香であるが、その後もちょくちょく菅首相を訪れ政局指南を行っているようである。実際、菅首相亀井静香のおかげかどうか意気軒昂のようであり、自然エネルギーへの理解を示してみたり、1.5次補正などと2次補正の呼び名を替えたり、挙げ句の果ては内閣改造まで言い始めている。

この期に及んで内閣改造など殆ど狂気の世界に思えるのだが、菅は本気で言っているのだろう。そして亀井静香はそんな菅を上手く利用しているのだろう。多分仙谷らが離れていったのを見据えて、孤立無援となった菅首相に取り入り被災地対策の一つでも成し遂げようというくらいだろうが、何せ百戦錬磨の亀井静香である。この機会に仙谷一派と自民党を上手くパージするするところまで画を描いているのかもしれない。少なくとも、財務省が目論むような安易な増税は少し難しくなってきたといえるだろうと思う。何せ亀井静香国民新党郵政民営化に反対して自民党を追われた議員らが作った政党なのである。これは財務省支配とは対極にある考えである。

東北の震災と福島第一原発事故により被害を被った人々の為にも、仙谷一派に代表される現民主党執行部や自民党長老など政局バカ達はなるべく早くパージし、復興策を制定する必要があると思う。その為には火をつけて回って追い出すべき者達は早々に追い出すべきなのである。

菅首相は8月あたりまで続投することになるかもしれないし、その後は衆議院選挙になるかもしれない。僕としては既に気が触れているとしか思えない菅首相などさっさと退陣してほしいところではあるが、どうにもならない政界を浄化できるのであれば多少回り道であっても仕方がないと思う。多少楽観論が過ぎるとは思うけれど、急がば回れ、である。

無料アクセス解析

*1:会場には宮台真治もいて熱心に拍手していたという。

*2:不信任案を取り下げなかったことで自民党のレベルの低さがよく分かる。

菅内閣不信任案が否決されるこれだけの屁理屈

最近はブログを怠けてTwitterでつぶやきを発するようになっているのだけれど、少々込み入った話はTwitterの140文字迄という限界に突き当たってしまう。というわけで久しぶりにブログを更新してみようと思う。

野党自民党菅内閣への不信任案をとうとう提出する腹を決めたと報道されている。

自民党、内閣不信任案を6月1日にも提出へ 2日の本会議で採決の見通し自民党は、菅内閣への不信任案を1日にも提出する方針を固めた。
菅内閣不信任案の2日の採決が固まったことで、与野党の動きは一気に緊迫化している。
自民党の谷垣総裁は、1日の党首討論の最後で、「到底、菅首相を信任することはできないので、直ちに不信任案を提出する」などと宣言する見込み。
そして自民党として、早ければ1日中に不信任案を提出する方針で、不信任案は、2日に本会議で採決される見通しとなった。
これを受けて、民主党内では、造反をめぐる駆け引きが本格化しており、態度を決めていない鳩山前首相のグループが、31日午後に会合を開いたが、結論は出なかった。
現在、不信任案に同調する覚悟の議員は50人台とみられ、可決に必要なおよそ80人には及んでいない情勢。
一方、小沢元代表らの造反回避に向けては、渡部恒三最高顧問らが動いているが、小沢氏サイドは、将来的な菅首相退陣の確約など、高いハードルを掲げているもようで、対立回避は難しいもよう。

民主党衆議院で300議席以上を持つマンモス与党なので、基本的には野党の不信任案などなんてことはない。しかし、昨年政権に就いてからマニュフェストを否定し、次々と出鱈目ばかりを並べ立てては増税など官僚の都合のよい政策ばかり推進しようとする菅政権には、民主党内からも反感を持つ議員が少なからず出てきていた。そして3月に起こった震災への対応が不十分であり、さらには福島第一原発事故に関連する情報を一方的に隠蔽するといった対応には国民の側からも大いに疑問が投げかけられている。

そうした菅政権に最も不満をつのらせているのが小沢一郎元代表に通じる議員達で、中には露骨に政権批判を繰り返すものも多くいるのが現状である。また、小沢一郎自身もWSJ等のインタビューで臆面なく菅政権を批判しており、これは倒閣へ向けた政局の表れではないかと憶測をよんでいた。

そこで配下の議員達も優柔不断と認める谷垣自民党総裁が、いよいよ内閣不信任案の提出をする腹づもりを固め一気に政局の様相を呈し始めたのである。

谷垣自民党総裁が内閣不信任案の提出を決めたのは、独自の調査で今解散総選挙があると自民党は単独で300議席をとれるのではないかという結果が出たからだといわれている。それと共に、小沢一郎のグループ内に菅政権への不満のガスが充満しており、一気に火を噴くのではないかといった期待も込められている。

さて、上記記事にもあるように、この内閣不信任案が賛成多数となるためには、民主党側から約80名以上の衆議院議員が野党自民党の出した不信任案に賛成票を投じなければならない。しかし今のところ小沢グループを中心とした造反議員は50名前後といわれているようだ。

造反議員の数が伸びないのは、菅内閣側が不信任案が通れば総辞職ではなく衆議院解散総選挙を選ぶと恫喝しているからである。今衆議院解散して総選挙をすると民主党議員の多くは落選の憂き目を見ることになるだろう。

この程度の恫喝に屈するような議員など、例えば北朝鮮が本気で恫喝してきたときに何の役にも立たないヘタレな訳でさっさと消えてくれればいいと思うのだが、彼らは自分の身分を守るために造反することはしないだろう。大体、3月に被災した東北の町は今もまだ瓦礫の山なのである。一体どうやって総選挙など行うというのだろうか。しかも、福島を選挙区にしている安住国対委員長までもが不信任案が通ったら総選挙を進言するなどとヌケヌケと言っている。こんな低レベルの執行部に怒りを感じない議員など木偶の坊と呼ぶ以外にないだろう。

鳩山グループの議員達が二の足を踏んでいるのは、彼らこそ民主党を結党したオーナー一族に通じている真性民主党であるという自負があるからだろう。彼らにしてみれば造反して処分されるのは理に適っていないし、彼らが引き金となって民主党が割れることは我慢ならないのである。特に鳩山前首相はその気持ちが強いだろう。

民主党と連立を組む社民党国民新党も内閣不信任案に反対することを表明している。

つまり、現状に於いて、内閣不信任案を成立させるためには小沢グループ議員と鳩山グループ議員が除名覚悟で造反しなければならないということになり、これは既に大変にハードルが高いことな訳である。結論を言うと、内閣不信任案は否決され、菅首相はそのまま居座ることになるだろうし、不信任案否決により信任されたという理屈を述べさらに長期間内閣を継続させようとするだろう。

さて、しかし問題はここからである。素人の僕にだってこの程度のことは分かっている。それならば小沢一郎ならさらに先を読んでいるだろうことは明白である。

小沢一郎が何度も表明しているとおり、政権交代はまず自民党を下野させることが最大の目的だった。だから、自民党を政権に返り咲かせることは何としても阻止するべきである。不信任案が可決され菅首相が解散を選んだ場合、民主党は総選挙で敗北し、自民党は再び政権に返り咲いてしまう。それは阻止したい。しかし一方で菅内閣を転向させたい。

こうした相矛盾する目的を一気に成し遂げることが出来る手法は一つだけである。それは大量の欠席である。例えば80名ほどが内閣不信任案決議を欠席した場合、不信任案は通らず菅内閣は一応は信任される。しかし党側が欠席議員を除名等の処分を行おうとしても、80名を一気に処分など出来るわけはない。小言を言う程度で終わらせるしかない。

一方で小沢・鳩山グループにとっては、ここで党内指導力を削がれた岡田幹事長を替えることが出来るかもしれない。また野党自民党に不信任案をみすみす提出させてしまった安住国対委員長や、こうした混乱を招いた原因を作った責任者である枝野官房長官も更迭できるかもしれないのである。というか現状で目指すことの出来る最も有効な手段はそのあたりだろう。

どのみち菅政権は長くはない。何と言っても参議院で圧倒的少数なのである。今後は震災関連法案以外は尽く参議院を通らないだろう。震災関連法案にしたって重箱の隅をつつかれるに違いない。小沢・鳩山グループとしてはあと少し菅の自滅を待てばよい。その時、自滅した菅首相とは一線を画した位置にいた方が有利でさえある。

今回の内閣不信任案は否決されることになると考える方が合理的だろう。ただし、それが菅内閣への信任とならないよう、民主党側から大量の棄権が出るだろう。そしてあわよくば岡田、枝野。安住といった三バカを放逐できれば小沢グループの勝ちとなる。

こうした予想が当たるのかどうかは分からないけれど、僕はそうした目で今回の政局を見ている。

無料アクセス解析

菅首相が突如会見した「浜岡原発停止要請」に感じる居心地の悪さ

昨日突如行われた首相会見で、菅首相は「中部電力浜岡原発の停止を要請する」と発表した。

菅直人首相は6日、東海地震の想定震源域である静岡県御前崎市にある中部電力浜岡原子力発電所について、定期検査中の3号機や稼働中の4、5号機も含めてすべての原子炉を停止するよう中部電に要請した。中部電は受け入れる方向。停止期間は、中部電が2〜3年後の完成を目指す防潮堤新設までとなる見通しだ。(asahi.com)

このニュースは青天の霹靂といってもよく、これまで菅首相福島第一原発事故に対する対応などに批判的だった人々も概ね好意的に受け止めたり、或いは呆気にとられてしまったりしているようだった。

そして僕はといえば、大変に居心地の悪い思いをしている。何か腑に落ちないのだ。美味しい話には裏がある。タダほど高いものはない。

与野党の反応も一様ではなく、以下の記事を読むと、この会見がどれほど予測不可能なものだったのかよくわかる。誰もが驚いているのだ。

福島原発事故が深刻化するなか、民主党浜岡原発の全面停止要請という菅直人首相の決定をおおむね歓迎している。ただ党内には参院比例代表原発推進の電力総連の組織内候補もいれば、原発に慎重な議員もいて反応は複雑だ。
首相に近い政務三役の一人は「財界は猛反発するが、国民は支持する。やっと市民運動出身政治家の本領を発揮した」と評価。静岡県選出の渡辺周国民運動委員長(静岡6区)も「県民の関心は、津波浜岡原発への懸念と恐怖だ。いったん停止して安全確認をするのが地元のコンセンサスだ」と評価したが、「地元自治体は原発関連の補助金に財源を頼っており、財政的な配慮が必要だ」とも指摘した。
野党の反応も一様ではない。自民党石破茂政調会長毎日新聞の取材に「政府の判断は重く受け止める必要があるが、どういう理由で判断に至ったのかを政府は説明する責任がある」と指摘。公明党山口那津男代表も「中部電力静岡県などに根回しした形跡は見受けられず、唐突さがぬぐえない。将来のエネルギー政策の展望を示さず、国民の協力で乗り越えられるというのでは不安だけが残る」と述べ、首相の対応を批判した。
一方、共産党市田忠義書記局長は「世論に押されて停止したのは一歩前進だ。全国的な原発廃炉を目指して国民運動を起こしていきたい」、社民党福島瑞穂党首も「首相の決断を歓迎する。『脱原発』の未来を切り開く大きな一歩となるはずだ」と評価した。(毎日.jp)

民主党自民党も地元もみな驚いている。何故驚くのかというと、菅首相が転向したように見えるせいである。これまで何度も今後のエネルギー政策について脱原発という方向を無視し続けていた人のはずなのに、いきなり浜岡原発の停止要請をするなんて意外、というわけだ。

僕は「転向」というものを容認している。昨日まで原発推進派だった人が、原発の危険性に気付いて脱原発派に転向した場合、過去に何を言っていようと大事なのは現在の意見である。こうした転向派を沢山受け入れられるかどうかで陣容は変わる。市井の意見など数を集めないと屁の突っ張りにもならないものであり、転向派を排除する純粋主義は決して多数派とならず何時しか風化し忘れられていくのがオチである。

だから、もし本当に菅首相が今後のエネルギー政策に対して「脱原発」を打ち出し、代替エネルギーへの転化や開発に積極的に取り組もうとするのであれば歓迎することだろう。

しかし、僕の中ではどうしても素直に菅首相を認めることが出来ない気持ちがある。これまで散々党内の小沢グループや反官僚議員を裏切り粛正してきた人間である。信用などまるでしていない。そんなときに読んだのが自民党河野太郎氏のブログである。

ようやく浜岡原発の停止を政府が要請した。残りの原発に関してもきちんとしたストレステストをすべきだ。そして自民党としても、今回の政府の要請を評価し、後押しをしなければならない。
経産省のいわば主流の課長から、報道されている東電救済案は、税金投入をしたくない財務省主導の案で、経産省としては東電を何が何でも守る気持ちはないとの打ち明け話。ただ、このままいけば、民主党東京電力の戦いは東京電力が勝つだろうと、彼は個人的には思っているらしい。
財務省は、一義的に東電の責任にして、交付国債で逃げておいて百年かけてもそれを返却させるということで、財政出動を避けようとしている。
財務省は当然に、金融機関に対して、これまでの貸し手責任は問わないから東電を支援しろと要請しているはずで、その担保として、株主責任は問わないことにするだろう(株主でさえ責任を問われないのに、金融機関が責任を問われることはないだろう)。
財務省は、損害賠償を財政で負担することにさえならなければなんでもよい。電力料金が値上げされようが、電力会社がこれからつくる「保険」で、既に起こってしまった事故の賠償を、後出しじゃんけんで払うことにしようがどうでもいいのだ。
財務省からしてみれば、監査法人がどう対応するかだろう。いやいや、監査法人にどう対応させるかだと思っているかもしれないが。
りそなやJALと同じようなあやまちが繰り返されることになるのだろうか。またしても監査法人のありかたが問われる。

河野太郎氏は最初のパラグラフで浜岡原発停止について軽く触れ、それ以降は東電の損害賠償について書いている。しかも東電の損害賠償について財務省のスタンスを予想しながら書いているのである。

ここで思い出すのは菅政権とは財務省の傀儡であるという事実である。

菅首相は、昨年の参議院選挙前に何を思ったのか突然消費税増税を唱えて大惨敗した。しかしそれ以降も性懲りもなく、企業減税所得税増税を目論み、増税論者の与謝野肇を呼び寄せて閣僚に起用し言いたい放題にさせている。しかも3.11震災の復興資金も増税論をちらつかせている筋金入りの増税論者である。そして増税とは即ち財務省の悲願であり、その財務省の政策に盲目的に従い続けてきたのが政権交代して以降の菅直人のポリシーだった。

であるならば今回の浜岡原発停止要請も財務省が絡んでいるという確率が高いのではないか、と思うのだ。

東北地震津波による被災は想像を絶するものであり、その復興費用は一説によると限りなく20兆円に近いものといわれている。こうした試算も、どのような過程を経て行われたのか定かではなく、明細も分からないので何とも判断できないのだが、未曾有の予算を投入しなければならない点は誰もが認めるところである。

しかも今回は地震津波だけでなく福島第一原発事故による被害も莫大であって、こうした予算を司る財務省としては頭の痛い問題が山積しているだろう。まずは増税で復興をと探ってみたが、あまりにも国民からの反発が強い。強行すると政権が幾つか吹っ飛ぶことになるだろう。また原発事故に関しても、電気料金の値上げで探りを入れたが結果は同じく猛反発を受けた。

ここで財務省東京電力を切り捨てる覚悟が出来たのではないか、と思う。東京電力には数兆円に上る資産があり、それを吐き出させることを優先するのである。河野太郎氏が言うように、その結果東京電力がどうなろうと財務省としては知ったことではない。資産を吐き出した後、東京電力という会社が残っていけるのなら残ればいいし、駄目なら国有化されようが分割されようがどうでもいいのである。

東京電力が資産を吐き出したあとは、日本の電力会社そのものが再編に向けて進むことになるだろう。また、再編させなければならない。なぜなら、東京電力が倒れても電気を止めることは出来ないわけであり、その為には中部電力関西電力東北電力等の協力が必要なのである。他の電力会社の素早い協力がなければ送電自体が止まってしまう。

だから、この協力を強制させるためには東京電力を他の電力会社がシェア出来る形態を作ることが必要なのである。何故ならば、このオペレーションを確実に行わないと、経産省の最も嫌がる外資による電力会社の買い取りが行われることになってしまう。特に菅政権が現をぬかしているTPPなんぞが本当に始まってしまう前に、電力再編を完了させ、外資を排除できる体制にもっていかねばならない。でないと、外資が入ると官僚達の天下り先がなくなってしまうではないか。

だから、浜岡原発停止要請とは財務省主導型の復興資金確保のための最初のステップである。いまだ巨大な力を持つ東京電力というモンスター企業を解体する際、こちらが本気であることを示す一里塚であると同時に、喉元に突きつけた匕首であろう。「ほうら原発なんか簡単に止めてみせるよ、だから言うことをききな。貯めてる金を持ってきな」

もちろん菅首相側としては、これを政権浮揚に結びつけたいところだろう。特にその翌日である今日、日本各地で反原発デモも行われる予定であり、日頃から風当たりの強い自分の政権運営に対して見直してもらえるきっかけになればという願いも込められているのだろう。

もう一点、今回の「浜岡原発停止要請」で見逃してはならないポイントは、他の原発の停止を求めていない点にある。例えば細野豪志首相補佐官は以下のように述べている。

細野豪志首相補佐官は7日午前のTBS番組で、菅直人首相が中部電力浜岡原子力発電所静岡県御前崎市)の運転停止を要請したことについて「地震のリスクが(他の原発と)違う」と述べ、大規模な東海地震が発生した場合を考慮したことを強調した。また、「原発政策全般についてはいろいろな議論がこれから行われる。それとは分けた判断だ」と述べた。(時事ドットコム)

つまり、浜岡原発停止要請は浜岡原発だけの特異なケースであり、今後のエネルギー政策を転換するという意味合いをもたないといっているわけだ。

もちろん浜岡原発地震層の上に位置し、東海地震が発生した際の影響を受けやすい。ここで放射能漏れが起こった際は被害が神奈川県下の米軍基地や東京都内にまで及ぶと予測されている。だから以前から反原発派を唱える人々にとって火急の案件でもあった。

つまり財務省の思惑と菅首相の思惑と反原発に目覚めた市民の思惑とが交わったところに浜岡原発があったわけである。だから決して純粋に原発からの脱却を目指そうとしたものではない。そのあたりを元レバノン大使の天木直人氏は喝破している

これは追い込まれた菅首相がみずから思いついた壮大な延命工作であり、ウィキリークスで追い込まれた普天間問題隠しである。

つまりはそういうことなのだ。これで日本がエネルギー政策を転換し脱原発化する訳ではないのだ。

しかし、市民側はこの決断を盛り上げることで、本当に政治に脱原発を行わせることも出来るのである。だから、当面の間は気持ちが悪いながらも、菅首相浜岡原発の停止要請を支持し生暖かく見守るつもりである。そして期待を裏切ったらこれまでの倍の圧力でバッサリと斬り捨てよう。もちろん言論に於いてであるが。

無料アクセス解析

非常時に総理大臣を替える勇気。

あの震災から一月が過ぎた。
この一月は、震災の影響などなかった関西に住んでいる僕なども、厚く重い憂鬱な気分にどっぷりと浸かってしまっていた。

地震津波の被害にあった人々や場所をテレビ映像で視る。被災者の人々の今後はどうなるのだろう、そしてこれだけの被害を受けた町は一体どうなるのだろうと考えるとやりきれない気持ちになる。家族や家や仕事を一瞬で失ってしまった人々はもちろん、その気持ちを察することは辛いことだし、それでも彼らが健気に復興を目指して日々を送る姿には尊厳をも感じる。一方で彼ら被災者に国家がしてあげられることが何も決まっていないという現実に唖然とするし、赤十字の募金でさえ配られるのに少なくとも半年はかかると聞くと呆然として言葉さえ失う。

福島第一原発事故から一月が過ぎて漸く事故評価がレベル7に引き上げられた。これで福島第一原発チェルノブイリと同じクラスの被害規模であると日本政府が認めたことになる。以前からレベル7は当然という意見がネットを中心に飛び交っていたので今さら驚きはしないけれど、統一地方選挙が終了した直後の発表には何らかの意図があるのだろうと感じるところだ。

この約一月の間、日本政府は、被災者の救助や支援、原発事故処理など後手後手に回ってしまい、国民にとって必要だと思われる放射能に関しての情報さえ意図的に伝えようとしなかった。そうした日本政府に対して海外メディアからは執拗な攻撃と憐れみが加えられた。海外メディアはスリーマイルもチェルノブイリも経験している。彼らの目には最初から福島第一原発の状態は極めて危険に映っていたし、結果的にその視点は正しかったようだ。

日本政府や東京電力に対して物わかりが良かったのは、当事国である日本のマスメディア企業だけである。東電批判を抑える一方で従来からの原発推進政策の変更をも封印した。しかし一般の日本人もマスメディア企業が垂れ流す「安心」に懐疑の目を向るようになってきた。漸くここにきて、ある程度の数の人々がいわゆるマスゴミ報道が怪しいものだと実感し始めたのである。それはネットでの言論空間や高円寺で約15.000人もの参加者を集めた原発反対デモなどにみることができる。

日本がこれから行うのは復興という具体的な作業である。1945年に太平洋戦争で焦土と化して以来の大規模な復興が必要なのである。あの当時、日本は明治維新以来続いていた律令制を変更するチャンスだったのだが、荒廃した日本を速やかに復興させるため統治していた米軍が選んだ手段は従来からの律令制を再利用する手段だった。官僚制を維持し、本来戦犯として裁かれるはずだった政治家や活動家を再び野に放ち、見えない鎖で縛り付けコントロールすることで効率的に日本の戦後復興を成し遂げたのである。

この手法は復興時間の短縮と冷戦下の米国覇権の維持という点で効果が現れた。しかし復興が終了し日本が世界有数の経済力を得た後、特にソヴィエトとの冷戦が終結した世界の中では、従来からの律令制の維持は日本の成長にとって足枷となっていたのである。

そして今、東北大震災と福島原発事故を抱えて、日本はもう一度自らの再生を期さねばならない局面を迎えたのである。多くの犠牲を払った災害の後の復興で、それはとても気の重くなる作業である。しかし、将来を見越した大局的な視点があれば前向きに考え行動を起こすことが出来るのではないだろうか。

こうした復興の具体的なヴィジョンを示すべき政府は菅首相の下で復興構想会議、復興本部、復興実施本部等、会議を乱立させるだけで、まだ何も具体案を示していない。放射能が国民生活にどれだけ影響があるのかといった情報は隠蔽され、それどころか、これだけの事故を起こし事故処理さえ不手際が続く原子力政策の将来像に対しても何ら具体的な言及がない。菅政権がいくら口で偉そうなことを言っても、その視点は市民生活をベースとしたものではなく巨大エネルギー産業寄りでしかない。こうした隠蔽体質の政府に今後何が出来るのか甚だ疑問である。

今後福島県を中心とした地方では農水産物産業は壊滅する畏れがある。例えばチェルノブイリ産の野菜や魚類を食べたいという人などいないことなどからこれらの産業の未来は明らかだろう。これは福島第一原発事故の影響によるもので、この地でそれらの仕事に従事している人々のせいでは決してない。地元の人々の意向はもちろん以前の姿に戻すことだろうが、他産業の誘致や新たに立ち上げることを含めて、福島での産業構造変換が果たして可能なのかどうか政治家はしっかりと見定めなければならない。

また、福島第一原発事故をうけてドイツではみどりの党が躍進し、今後の原子力政策を白紙に戻す決定が行われたのだが、これは国のエネルギー政策を変更するばかりではなく、国の中の巨大産業を政治的に転換させるという大変革となる。これは19世紀に起こった産業革命に匹敵するほどの産業構造の変化が起きる可能性まであるのである。

こうした英断を最も期待されるのは、遠くヨーロッパにあるドイツ等ではなく、今回の事故を起こした日本であることは自明である。日本が福島第一原発事故から学びエネルギー政策を変更させることは世界に向けたメッセージとなり、世界が脱原発政策に向かう先駆けとなる可能性があるのだ。

そして、福島第一原発廃炉が時間をかけてでも成功すれば(というか成功以外に日本人の未来はない)その経験は脱原発政策に必要な廃炉技術を身につけたともいえるわけだ。これは廃炉ビジネスという巨大産業を生むきっかけとなるかも知れない。一つの産業が終わると必ず新しい産業の出番となる。問題は古い産業に救った魑魅魍魎たちだろう。

菅首相はこの震災以降、自民党に向けて大連立を打診するといった政局的な動きを執拗に行ってきた。このような国家的非常時に政党の違いや政治手法の違いを乗り越えて結束し国難に立ち向かおうというのが建前である。自民党谷垣代表は中曽根、小泉、海部など総理経験者らの意見を聴き、結局この申し出を辞退することとした。

自民党が大連立に色気を持ったのは国難に対して一致協力するといった表向きの理由の他に、引退間近の老議員たちに大臣職を与えたいといった党内事情に依るところが大きい。また菅首相自民党に大連立を持ちかけたこと自体も、野党をこの機会に取り込んで参院少数となった与党の基盤を安定させ、首相自身の延命を図ろうとする意図が透けて見える。だから大連立など組むべきではなく、谷垣党首の英断には賛同するのである。

自民党の役割は政府機能をチェックすることである。この大災害に乗じて与党民主党がおかしな政策決定をすることがないようにしっかりと見張ることが必要なのだ。自民党にそのチェック機能があるのかどうかは兎も角、大連立などするとそうしたチェックは一切働かない。それでは議会の意味は失われ、政府は大政翼賛会と化し、以降の政治は独裁的議会体制へと移行することになる。これは太平洋戦争に突入直下の日本政治が犯した過ちの繰り返しである。

菅首相という人はそのような独裁的色彩を帯びた人物であるということをここでハッキリと認識しておくべきなのである。そして未曾有の危機に見舞われた現在、こうした首相を持つことがどれほど危険なことかよく考えるべきだろうと思う。国民に危険を明示せず、既存産業の利益を優先させ、翼賛会を志向する人物がトップにいることは震災と同規模の危険性があり、場合によっては本当に日本を沈没させるきっかけとなるかも知れないのである。

危機の中でリーダーを変更することは、実は世界に向けた明確な意思表示なのだ。この危機から脱し恒久的な平和を志向する国であることを示す手段なのである。ここでリーダーを変更したからと行って災害対策が後手に回ることはない。現在官邸が行っている災害対策など会議の乱立や人気取りの新大臣就任程度しかないのである。

この災害で日本が本当に変わらなければならないとしたら、それは首相を替えてこそ始まろうとするだろう。菅首相のままでいることこそ最悪の後ろ向きの選択なのである。

無料アクセス解析