日本政府は国内景気の動向には一切興味がない

景気が悪い。とことん悪い。
各種調査による景気動向指数を見ると、2000年以降緩やかに上昇しつつあった景気も2007年辺りを最後に下降し続け、現在は奈落の底とも言える落ち込みとなっている。

実は、こうした大きな調査による景況判断の結果については簡単に説明が付く。つまり2000年以降の好況感は中国市場の拡大によって日本の産業界が引っ張られたことによるものであり、2008年以降の落ち込みはリーマンショックといわれる金融バブルの崩壊に端を発したものである。

つまり、1990年代初頭にバブル景気が終了して以降、日本は景気が良くなるのも悪くなるのも全て外国経済市場頼みだった。大きな枠組みでいうと、日本人が日本の景気を良くしようと努力して成功した例しがないのである。

たったこれだけのことでもの凄く不思議な感覚に陥らないだろうか。日本政府は常に景況感や景気指数を発表し、それに基づく経済政策を考え実行してきていたはずなのに、結局ここ20年以上に渡る国内の景気動向は外国の経済次第だったなんて聞くと狐につままれたような気分になる。

これを日本は貿易立国であるから、海外の景気動向に左右されるのも当たり前だという人もいる。しかし為替レートをよく考えてみるといい。2008年のリーマンショック以降、小刻みな上下はあるけれど、1ドルは100円台に戻していない。それ以前の10年間も1ドルは110円〜120円ほどが平均だった。この水準でさえすでに円高である。現在は1ドルが70円台の後半である。

財務省も日銀もこの間何度も為替介入を行ってきているのだが、その結果が現在の70円台後半なのである。外国のものを輸入したり、海外旅行に行くには魅力的な為替水準であるが、貿易立国として国の経済をドライブするのは無理な水準である。つまり、現在の日本は貿易立国としての成り立ちは不可能なことになってしまっている。

どうして日本は不況なのに円の価値は上がるのか、という疑問は簡単に解決する。ドルにせよユーロにせよ、対円相場で下落している通貨は発行量が増えているからである。

(参考)
ドルの発行量 2008年中盤以降から半端なく増えているのが分かる。

アメリカもヨーロッパも、金融バブルが弾けて最も警戒したのが日本のようなデフレ不況に陥ることだといわれている。そのためにある程度のインフレを起こしたのだが、その手法は通貨の流通量を増やすことだったわけだ。だからドルもユーロもじゃんじゃん刷られている。

こうした政策をインフレターゲットと呼ぶのだが、日銀は円を増刷するすることを頑なに拒んでいる。その理由が何であるかは分からない。日本ではインフレターゲットを支持する者をリフレ派と呼ぶのだが、彼らは政官財のいずれの方面からも人気がない。

結局、何もしない円に対して、ドルやユーロがじゃんじゃん刷られているので、円に対する1ドル1ユーロの価値が相対的に低下することは自明の理となる。それが現状の1ドル70円台後半という数字に如実に表れている。

菅前総理も野田総理もTPPを積極的に推進しようと主張する政治家であるが、彼らの主張は日本が貿易立国であるという前提で成り立たつものだ。しかし、現状の為替水準で日本が貿易立国として成り立つ訳もない。1ドル70円台では何も輸出など出来ないのである。また彼らの口から円高についての具体的な処置について、為替介入以外の方法論が出た例しがない。TPPなどこの一点だけを取ってみても、日本にとって利益がないことがよく分かる。

しかも、政府はこの状況で増税を謀っているというのだから、これはほとんど狂気の領域に入っている。多分日本政府というものは国内の景気や雇用やその他諸々の経済活動に対してまるで興味を持っていない。或いは、景気などといったものは政府の仕事ではなく、民間が行うべきものだと考えている。もしそうなら、ある意味それは正しいのだが、それなら民間の経済に役人がいちいち首を突っ込むような、特殊法人等によるビジネスからは一切手を引くべきだろう。しかしそれもしない。

今年3月の大震災と原発事故によって日本経済も未曾有のダメージを受けたのであるが、不幸なことに日本の政府は経済ダメージの回復に効く処方箋を考えようとする意思がないようである。その一方で民間が独自の動きをすることも許せないらしい。

野田総理の国会での答弁を一度聞いてみるといいと思う。官僚の作文を一心不乱に読むだけで、そこには国民にも分かりやすく噛み砕いて説明しようとする意思がまるでない。政治家も官僚も、国民のことなど構ってられないというのが多分本音なのだろうと思う。


グラフは商工会議所による景気動向調査(LOBO)によるもの。

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