既に民主党分裂工作は始まっているよ

8月30日の衆議院議員選挙の終わった夜、選挙速報番組を見ていると、司会者や政治評論家などのコメントがおしなべてレベルが低いことに気がついた。

ある関西ローカルの選挙速報番組では司会をお笑い芸人が行っているものがあった。この芸人は兵庫県尼崎市の選挙区で、公明党重鎮の冬柴元国土交通相と激しい選挙戦を交えた新党日本田中康夫代表にスタジオからインタビューし、「尼崎に住民票を移すのか」とか、「田中さんは尼崎の下町イメージに合いませんね」などと言っていた。

この芸人は特に悪意があったわけではなく、「尼崎に住むのならスナックなどに飲みに行ったときに出会えるかもしれない」と言いたくて、「その時は仲良くお話してください」とオチをつけたいだけだったようなのだが、田中康夫といえば長野県知事時代に地元マスコミなどと大戦争をした政治家であり、長野県のある村長の政策に惚れ込んで、その僻地の村に住民票を移したら、住んでいない場所に住民票を移すのは県知事として欺瞞であると激しい中傷報道戦争を仕掛けられ、その後バスで何時間もかかってその僻地の村から県庁まで通うことを余儀なくされた人である。その頃の信濃毎日新聞田中康夫への攻撃は凄まじく、徹底的に粘着した中傷攻撃が続いたものである。何せ信濃毎日新聞社のオーナーは某自民党有力国会議員なのだ。

いくらお笑い芸人とはいえ、そのような戦禍をかいくぐって来た田中康夫にする質問ではなかった。質問というより世間話のノリだったのだろうが、その程度のお笑い芸人に選挙報道の司会を任せるテレビ局の見識こそ信じられないほど低いのである。

また、小沢一郎にインタビューしたアナウンサーは、まだ開票結果が出揃っていないのに、「閣僚になるのか」とか「民主党内で小沢グループが巨大になることに懸念の声がある」とか、「小沢院政を恐れる声が多い」などとくだらない質問を浴びせていた。

小沢一郎はそのような質問にいちいち答えることはせず、「答えるにはあまりに低レベル」といった内容のコメントを出していた。正しく全くその通りだと思う。

まだ開票結果も出ない段階で、閣僚がどうのこうのといった問題に、政党の責任ある地位にいる政治家が易々と答えるわけもない。また小沢グループだの、小沢チルドレンだの、小沢院政だの、存在すら確認もされていないものに対してコメントを求めようとするなど常軌を逸していると思う。このレベルの低さはアナウンサー兼司会者という、普段政治報道に携わっているはずの人々から出ているのだからレベルの低さに呆れ返る。

ある番組などはプロの政治評論家を呼んだのはいいのだが、森田実や伊藤淳夫などといった政治評論家に小沢一郎の脅威を語らせていた。森田実曰く「イギリスの新聞に小沢一郎院政を敷くと政権が崩壊すると書かれていた。これは危ない。注意しないといけない」 伊藤淳夫も「小沢一郎が党内権力を持ち院政を敷くと民主党が分裂し崩壊するので、閣僚となって見える場所に出るべきだ」と言う。

森田実はかつて小泉批判をしてテレビ出演を粛清された政治評論家であるし、伊藤淳夫に至っては民主党スタッフだった人である。このような人たちが、相手が小沢一郎となるとどういう訳か感情を剥き出しにして吠えまくる。

極めつけは武村正義野中広務といった引退した政治家などをわざわざと引っ張ってきて小沢一郎批判をさせていた番組である。どちらも小沢一郎は影で権力を振るうので、見えるところに置いておいたほうがいいなどと言うのである。引退したのなら静かに余生を送ってりゃいいのに、老醜を晒しにテレビ出演までして相変わらずいい加減なことを言う。ご苦労様なことである。

武村正義など、平野貞夫著「虚飾に囚われた政治家 小沢一郎の真実(講談社α文庫)」などで告発されているが、細川連立政権ができたときには既に自民党と密通していた輩である。その後ことごとく細川政権の足を引っ張った挙句政権を崩壊させ、社会党自民党をくっつける接着剤の役目を嬉々としてやって大蔵大臣に就任した曰くつきのペテン師だ。

一方の野中広務小沢一郎が代表していた自由党を利用して公明党を呼び込んだ寝業師である。小沢一郎は野中が自由党の公約を呑むと約束したので連立に協力したのだが、自由党を接着剤として利用し公明党を呼び込んだ時点で裏切られた。平野貞夫によると、連立前に梶山静六が「野中に騙されるだけだぞ」と警告してくれたのに、小沢は野中との約束を信じて結局は裏切られたという。

ちなみにこの直後小渕総理が急逝することになる。報道ではその原因は小沢一郎公明党を切るように小渕に迫ったせいだと報道されているのだが、平野貞夫によるとまったくそんなことはなく、小渕=小沢両氏が連立存続のための会談をし合意が出来たことを発表する直前に、野中が自由党との連立を解消する発表を行えと小淵に強要したための心痛が原因だということである。

明らかに勉強不足のお笑い芸人はともかく、ほんの10年程度の歴史を忘れ去った政治評論家や、ひたすら裏切りを続け結局は引退することになった元政治家などをテレビに出して、何とか小沢一郎を攻撃しようとする魂胆は何なのだろう。

ひとつには、これら政治報道番組の過去のスタンスが常に小沢一郎を悪人に仕立て上げることで成り立っていることが挙げられる。自民党時代から小沢一郎金権政治の象徴として報道し、影で権力を振るうどす黒い政治家というレッテルを貼ってきた。今、小沢一郎への攻撃を緩めればこれまでの報道姿勢そのものを自己否定することになるのだろう。また、小沢一郎は決して言い訳しないし、何を言われても文句を言ってこないこともあるのだろう。

次の理由としては、小沢一郎を攻撃して民主党内対立を煽り分断するか、あるいは小沢一郎を閣僚に起用させて、自由な政治活動や選挙活動を行えないように縛ることである。そのための攻撃は既に始まっているとみることが自然である。何せ小沢一郎が政権の要職に就かず、来年の参議院選挙に向けて力を発揮し、参議院選挙でまたもや民主党が勝利すると完全な政権交代劇が完成してしまうのだ。

また鳩山由紀夫にも仕掛けが施されたようだ。日本の月刊誌「VOICE」に寄稿した論文が勝手に米ニューヨーク・タイムズ紙に載ったのだが、その際に意味を歪曲する英文翻訳が行われ、部分的な抜粋が行われ、本来の意味を失った文章に編纂されたという。

明らかに意図的な手が入った仕事である。この記事を読んで、一部の米政治評論家などが騒ぎ出したというのだが、アメリカも今までは自民党というクッションをおいて手を突っ込んでいたのに、自民党が役に立たなくなったので自らが仕掛けを施したのではないかと思えるほど露骨な謀略である。

細川連立政権時代、自民党が行った連立政権の取り潰し方は、武村正義などを使って内部分裂をさせることだった。その手法は今も変わらない。またもや彼らは民主党を分裂させようと本気でかかってくる。一方の民主党には分裂の火種が存在することも事実である。それは安全保障政策への同調か非同調というものではなく、単純にポストを巡るさもしい権力闘争である。民主党内における権力闘争はまた次回に書くとする。これは西松事件の小沢追い落とし騒動と根は同じものである。