バビロン崩壊

昨日3月23日、遂に東京都は浄水場1カ所の水道水で1キログラム当たり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたと発表した。同時にこれは乳児の基準100ベクレルを超えているとして、飲用を控えるようにとアナウンスもされた。日本の一般向け基準値は300ベクレルなので、政府はこの数値を問題ないレベルとしている。

因みにWHO基準 1ベクレル(Bq/L)、ドイツガス水道協会 0.5ベクレル(Bq/L)、アメリカの法令基準 0.111ベクレル(Bq/L)とのことであり、3月22日の日本各地の放射性ヨウ素浄水場での検出値は、東京210ベクレル(Bq/L)、横浜55.3ベクレル(Bq/L)、福島19.0ベクレル(Bq/L)、大阪0.13ベクレル(Bq/L)となっていて、その日降った雨の影響か大阪あたりまで尤も厳しい米国基準を超えている。

また日本の基準値である300ベクレルという値自体も、福島原発が事故を起こしてから6日経った3月17日に改訂されたものだという。

(参考)世界の水道水放射線基準値 (菜食文化研究会)

このニュースが広がるや、あっという間にミネラルウォーターは市場から姿を消し、東京ではスーパーの陳列棚に残った僅かなペットボトルを求めてレジカウンターの前には長蛇の列が出来たという。僕もネットでペットボトルの在庫状況を調べてみたけれど軒並み売り切れとなっていた。

この発表があった少し前には、実は中性子に関する発表もあったので以下に記しておく。中性子線は最強の放射線といわれα線γ線とは違いコンクリートでも余裕で突き抜ける性質を持ち人間に対する殺傷能力が高い。

中性子線検出、12〜14日に13回(読売オンライン)
東京電力は23日、東電福島第一原発の原子炉建屋の約1・5キロ・メートル西にある正門付近で、これまでに2回だけ計測されたとしていた中性子線が、12〜14日に計13回検出されていた、と発表した。
観測データの計算ミスで見落としていたという。
中性子は検出限界に近い微弱な量だった。東電は、「中性子は、(核燃料の)ウランなど重金属から発生した可能性がある。現在は測定限界以下で、ただちにリスクはない。監視を強化したい」としている。

このニュースでも今回の原発事故報道の特徴である「ただちに被害(リスク)はない」といった表現が使われている。この表現はパニックを回避するために使われたことになっている。しかし実はリスクに対する責任を回避しようとしているだけの話であって、責任逃れとバーターされているのは国民の健康である。また宮台真司によると、こうした被害に関する正確な発表がなされず、ただ実害がないなどと言うこと自体「愚民政策」に他ならないという。

自分の周りを見回しても、どんなお人好しでも政府発表を鵜呑みにする人は少なくなってきたように思う。誰もが「何だかおかしいぞ」、と思っていたところに、昨日の水道水と中性子の発表が来た。流石の日本人もそろそろ政府発表を疑い政府広報から離れるのではないかと、スーパーの長い列に並ぶ人々の背中をを眺めながら思ったのである。

3月11日に起きた東北沖地震津波による災害で福島第1第2原子力発電所が被災した直後から、東京あたりまで放射能被害が及ぶのではないかといった観測が一部のネットサイトでは行われていて、とうとうそれが現実のものとなり、後は被害が拡大する程度がどれほどになるのかといった方向に議論は向かっている。

実は3月22日の夜に福島第一原発では通電が成功したとの報道がなされ、これでこれ以上は悪くはならないのではないかといった安心感が広がっていた。

東電福島第一原発、3号機の中央制御室に照明点灯―23日にも稼働(ブルムバーグ)
3月23日(ブルームバーグ):東京電力福島第一原子力発電所3号機の中央制御室は22日午後10時43分に通電し、照明が点灯した。同制御室の照明と給水ポンプは同じ電源を共有しているため、体制を整えて23日に稼働させる見通し。
東電が22日午後11時過ぎに発表したところによると、3号機中央制御室に照明が点灯したため、近くに位置する4号機もある程度明るい状況だという。これ以外の機器への通電は23日以降に実施される。3号機中央制御室の空調はまだ回復していない。
3号機は、東日本大地震の影響で14日に水素爆発を起こし、建屋を大きく損壊した。一方、同機での16日の白煙の出所源とみられる使用済み燃料プールへの放水作業は22日午後3時59分に終了している。22日夜の原子力安全・保安院からの発表によると、冷却機能が失われ燃料が全て露出した2号機は、燃料プールが水満杯の状態で水温は51度だった。
今回の地震では、特に、1−3号機は燃料棒の被害が出たとみられるほか、4号機も使用済み燃料プールを冷やす必要に迫られた。使用済み核燃料の損傷に関して、保安院の西山英彦審議官は22日のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、被害は福島第一原発のみとしながらも、「具体的な全容は分からない」と話した。

この記事では照明がつき次に給水ポンプが作動し冷却が始まるといったニュアンスが見て取れるのだが、実際に起こった結果はそうした楽観的な予想を裏切るものだった。なんと3号機から黒い煙が出て作業員は退避せざるを得なくなったのである。

福島第一3号機から黒い煙 作業員ら退避(朝日コム)
東日本大震災で被災した東京電力福島第一原発福島県大熊町双葉町)の3号機で23日夕、黒い煙が出た。炎は確認されていないという。3、4号機の建屋内にいた作業員と、放水作業に携わる横浜市消防局と東京消防庁の職員は念のため作業を中断、退避した。原子炉や使用済み燃料プールの冷却に向けた作業が遅れる可能性がある。
経済産業省原子力安全・保安院によると、煙が確認された3号機では23日は外部電源の復旧にあたって機器の点検作業が続けられていた。3号機は22日夜に中央制御室に照明がついたばかり。外部から供給された電力を使って24日にも新たにポンプを作動させ、復水貯蔵タンクに保存されていた真水を炉心に注入する予定だった。
煙の前後で、付近の放射線モニタリング値に大きな変化はみられないという。
3号機では23日、使用済み燃料プールに内部の配管から海水35トンを注入。同様の方法で、24日に4号機、25日に1号機に注入していくという。
また、1号機は炉内の温度が設計上の最高温度302度より100度高い約400度まで上がったため、23日未明、給水量を1時間あたり2立方メートルから18立方メートルに増やした。緊急用の消火系と呼ばれる配管に加え、給水系と呼ばれる配管からも海水を注入。正午現在、炉内の温度は50度ほど下がったものの、炉内の気圧は高まっている。
外部電源による電力供給が再開された5号機では同日午後5時20分、海水で炉心を冷却していたポンプが停止した。東電によると、非常用電源からの切り替えがうまくいかなかったという。ポンプを交換し、24日に再起動する。
2号機では原子炉建屋の横のタービン建屋内で高い放射線量が検知されていたことが明らかになった。保安院によると、18日に作業で中に入った際、1時間あたり500ミリシーベルト相当の放射線量が検出されていた。作業は止まっているという。
4号機では50メートルを超える高さから遠隔操作できる特殊なコンクリートポンプ車で使用済み燃料プールへの放水が進められた。23日午前に福島県いわき市震度5強を観測する地震があったが、福島第一原発の作業に影響はなかったという。

要するに原子炉はまだ冷却などされていない。通電したとの報道があって安心感が広まったのだけれど、現実はまるで違う方向に向かっている。

今回の原発事故は、地震で緊急停止は出来たのに、その後の冷却が出来なくなったことがそもそもの原因である。冷却しないと原子燃料は何時までも熱を持ち、やがては自身が溶解(メルトダウン)する。その時に水や酸素などと化学反応を起こして爆発したり、溜まった水蒸気で圧力が増し内部亀裂が起こったり、圧力を逃がすためその水蒸気を放出する際に放射性物質も一緒に外に出てしまう。時系列でいうと現状はまだこの時点なのだ。

原子燃料を冷ますために消防車などが放水をしているのだが、これは現状を維持するのが精一杯であり、状況を好転させるわけではない。また、格納容器に入れられている原子燃料とは別に、使用済み原子燃料も4号機では冷却保管されていて、多分剥き出しの状態になっている。さらに酷いことに、3号機の原子燃料はプルサーマルといってプルトニウムを使用している。これは通常の原子燃料と比べて桁違いに放射能の力が強い。つまりまだ解決策はとれていないわけである。

だから原発から放出された放射性物質が雲に運ばれ雨となって離れた地域に降り注がれる。このように地理的に離れているのに放射能の雨が降る地域をホットゾーンと呼ぶ。チェルノブイリの時は北極を挟んで200キロ以上離れたカナダにホットゾーンが現れた。福島から東京までの距離はちょうどこの200キロ圏内にはいる。もちろん舞い上がった放射能物質が200キロしか飛ばないという訳ではなく、天候や気流の関係でさらに長距離を移動する可能性もあるのだ。

だからこれからも雨が降る度に放射能物質による汚染を考慮した生活をしなければならない。残念なことだけれど、これが真実なのである。枝野官房長官の常套句である、「ただちに被害が出るものではない」という言葉は現実のどこにも当てはまらない。

今や東京は世界の最先端都市から極めて危険度の高いゾーンに変貌してしまった。政府は「ただちに問題はない」と繰り返し御用学者はそれに太鼓判を押すのだが、損なわれるのは家族や自分自身の健康であり、それを枝野官房長官にベットするのは勇気があるというより無謀な行為だろうと思う。

どちらかというとおっとりとした日本国内に対して海外メディアの悲観具合は一度検討しておくといいと思う。多くの海外報道では、ハッキリとは言わないが「もはや日本は国土のかなりの部分を失うことになる」といった論調をベースにしている。そして「その時に多くの国民の命が犠牲になるだろう」、と考えているようだ。だからこそ世界中からあり得ないほどの義捐金が集まろうとしているのである。政界でも有数の外貨準備高を誇る国なのに、多くの発展途上国をも含む世界中からこれだけの寄付が集まる意味を正確に酌まなければならない。

実は今や日本というバビロンが崩壊しつつあるのではないかと考えている。誰もが「再興」という義務感を持ち、頑張ろうとしていることに反対する気はないし、自分自身もささやかながらその役に立つ活動をするつもりでいる。しかし、今回の原発事故においては、失うものの方が圧倒的に多いように思うのである。これから体験するのは旧態依然とした日本の国体のなれの果ての姿であり、それは圧倒的に多くの犠牲と共に沈んでいくのだろう。こうした考え方が間違っていると願うばかりなのだが。

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