結局のところ、今年最大のミステリーは「鳩山辞任」だった

はやいものであっという間に大晦日である。この一年、為し得たことなどまるでなく、為し得なかったことの膨大な量に喪失感を感じる一方、来年こそはと新たな気概を持つことももはやなく、まあこんなものさと諦めることが当たり前のようになっている。

新聞やテレビなどを始めてとして、今年一年を振り返るというニュースが巷間を賑わす。特に個人がブログでそのようなことを書く必要性を感じるものではないが、一つだけ喉に刺さった小骨のようにチクチクと今も痛む疑問を最後に一点だけ挙げようと思う。何故ならば、この疑問に全ての謎が集約しているからであり、これを解きほどけば現在の政権の混迷の謎も見えてくると思われるからである。だからこそこの疑問を忘れてはならないだろう。

それは「何故鳩山は総理大臣を辞任したのか」という疑問である。

鳩山前首相は6月2日に会見を開き、自らの総理大臣辞任と小沢一郎の幹事長辞任を発表した。鳩山はその理由として二点挙げていて、一つは沖縄米軍飛行場の普天間問題が当初の公約通りではなく辺野古案に落ち着かざるを得ず期待を裏切ったこと、二つめに「政治と金」という問題で、自らの母親からの資金提供に公表漏れがあったことと小沢一郎秘書逮捕をはじめとした疑惑があったことなどを説明した。

しかし、今こうして振り返ってみると、どちらも一国の首相が辞任をするほど重要な案件だとは思えないのである。沖縄の問題は自民党時代に辺野古移設が決められていて、鳩山政権が四苦八苦した後で結局力及ばず元の自民党案に戻ったというだけにすぎない。また「政治と金」の問題に関しても、鳩山も小沢もその後検察による起訴は正式に断念された。小沢に関しては検察審査会というこれもまた問題の多い組織が強制起訴議決をしたせいで来年に起訴が決定してはしまったが、小沢側の勝訴という判断が主流である。この事件の渦中にあった鳩山がそれを予想できないはずはない。

当時は8月に予定されている参議院選挙に向けて、支持率が低下していた鳩山政権では戦えないという見方もあり、そのためにやむなく辞任したのではないかという憶測も成り立つが、一方で前年の政権交代の時に圧倒的な支持を得た鳩山政権への期待はまだ萎んではおらず、国民の野党自民党への嫌悪も激しいまま持続していたのである。

鳩山政権に代わって参議院選挙を戦った菅執行部は消費税増税路線を露わにし惨敗することになるのだが、それは消費税を増税しようとする体質が、国民が鳩山政権に託した期待をあっさりと裏切るものであったことが大きな原因だったと思われる。菅政権の提唱した消費税増税という案はただ増税が行われるということだけではなく、鳩山政権に託された夢や希望を打ち砕くものであって、そうした菅政権の「裏切り体質」を国民が見透かした結果参議院選挙の大惨敗を招いた。その後の菅政権の迷走ぶりは、参議院選挙で示した国民の判断が正しかったことを証明していると言えるだろう。

菅政権のことはともかく鳩山辞任に戻る。一国の総理というものはその国で最も重要な役職である。極端なことを言ってしまえば、1億2千万人以上の国民の生死をも決めることの出来るほどの地位である。第52・53・54代内閣総理大臣鳩山一郎を父に持つ鳩山由紀夫がこの責任を知らぬはずはない。しかし鳩山由紀夫はその地位をあっさりと捨てた、というか捨てざるを得なかったのである。何故か。

やはり鳩山首相辞任を引き替えにした何らかの取引が行われたと見るのが自然だろう。そしてこの疑問の尤も分かりづらい部分はこの取引の見返りは何だったのか今もって分からないということだ。少なくとも金銭目当てということはないだろう。総理大臣でいればその気になれば幾らでも金を使うことも出来る。官房機密費なら証拠も残らないし官房長官の平野は腹心である。何より鳩山自身が資産家であって今更金銭など必要なかろう。しかも自身は総理辞任後は政界引退を示唆していたのだから、もう金のかかることをする必要もない。

そして鳩山辞任となったわけだが、その後鳩山は政界引退を撤回した。これが意味するところは一つしかない。つまり、総理大臣辞任に対する見返り条件が履行されなかったのである。だから鳩山は政界引退を撤回した。またこの疑問をミステリーにしているのも正にこの部分であり、一体何の約束があったのかすら外部には見えないのである。

さて、鳩山は米国には徹底的に嫌われた。ちょうど同時期に大統領に就任したオバマ大統領とは思想に一致する部分も多かったにもかかわらず、オバマは鳩山との会談をことごとく拒否し会おうともしなかった。そしてオバマ自身もその後、新自由主義者達が仕掛けたトラップの中でもがき苦しみ、公約を実行できず、じりじりと支持率を失い続け、現在は酷く低迷している。

鳩山が提唱した政策には東アジア共同体など米国のアジア覇権を脅かすような政策が含まれていて、米国が警戒することにはある程度予想されたものである。一方の米国が鳩山政権に突きつけたのは日米同盟の深化であり、日米同盟は既に締結済みであり友好国として覆すことは難しい。つまり米国が鳩山に言いたかったことは「今まで通りやれ」あるいは「もっと尻尾を振れ」ということに尽きるのだろう。

もはや米国が日本に期待することは金に尽きる。米国にとって日本とは貢ぐ君であり、恫喝すれば幾らでも金を持ってくるひ弱な子分なのである。それにノーを言う鳩山を辞任させることが米国の国益であったのなら、何を条件に辞任を促したのか。

一体鳩山辞任とは何だったのか。鳩山辞任以降、国民の信頼を裏切り続ける菅や仙谷が政権を牛耳り、前原のような自民党も驚くような新自由主義者が跋扈する現状の原因はここにある。鳩山辞任の理由は鳩山と小沢が知っている。だからこの二人は爆弾である。来年という年は、この爆弾が破裂するかどうかが最大の山場となるだろう。その時、政権が吹っ飛ぶことはおろか、日米同盟そのものも存続するかどうかといった破壊が行われるかも知れない。そして僕は密かにそうなることを期待している。



今年の更新はこれで終わります。本年度は拙駄文ブログにお付き合いいただき有り難うございました。来年もまた宜しくお願いいたします。
トニー四角

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