結局のところTPPは郵政民営化より酷い従米隷属政策となるようだ

こうして政治に関するブログを書いているのだが、元々政治に興味を持ち始めたきっかけは、自動車雑誌のNavi(既に休刊)で浅田彰田中康夫が対談する「憂国呆談」という連載を毎月読んでいたからだった。当時浅田彰京都大学経済研究所の助教授で田中康夫は作家であり市民活動家であった。現在浅田彰京都造形芸術大学大学院の学長、田中康夫長野県知事を経て新党日本を作り、参議院議員、そして衆議院議員となり、新党日本亀井静香率いる国民新党統一会派を組んで活動している。また「憂国呆談」という連載は現在はソトコトという雑誌に場所を移して再開されている

さて、その田中康夫がBSテレビで番組をもち、毎週その時々の政治に関する話題に突っ込みを入れているのだが、ここ2週間にわたってTPPについての疑問を番組内で呈し、その内容がマスゴミの論調である無条件迎合とはかなり異なるのでここに紹介する。以下の内容は田中康夫の番組内で紹介されていた言説を元に組み直したものであり、そこには田中康夫という政治家のカラーもあるので決して中立とは言えないかも知れないが、それは各々が判断すればよいと思う。

まずはそのテレビ番組のリンクを以下に張る。


最初の番組では民主党の福島伸亨議員、次に自民党小野寺五典議員がゲストとして招かれ対談を行っている。両者とも属する政党は違えどTPPには反対の立場である。この二人の結論を組み直してみると、結局のところTPPとは先日行われたAPECにおいて日本は議長国を務めるにも関わらず、ニュースバリューのあるお土産を(米国に)持って帰ってもらうことが出来ないので無理矢理引っ張り出してきたものであり、それ故この条約の中には米国を喜ばせる仕掛けが張り巡らされている、ということだ。

普段からボンヤリとしているので急にTPPなどという言葉が出てきても、それは自分の不徳の致すところであり世間ではとっくにこの言葉は浸透しているのだろうと思っていたのだが、このビデオを見ると肝心の国会議員の間でさえも三ヶ月前は話題に上らず、騒ぎがいきなり始まったのは一ヶ月前だったという。それほど急に沸き起こった案件な訳である。

TPPとは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP:Trans-Pacific Partnership、またはTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)のことであり、2006年にP4としてシンガポールニュージーランド、チリ、ブルネイの四カ国において関税を撤廃する自由貿易協定として話し合いが始まった。この話し合いはやがて関税の撤廃だけではなく、サービスや金融、人の移動なども含めた包括的な協定へと変遷していく。2010年春に米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムが参加し、秋にはマレーシアが参加表明した。

一方でEUや中国、インド、カナダ、韓国等は参加を見送っている。EUの場合は既にヨーロッパ内でTPPのような連合体を構築済みなのでまだしも、中国やインドはTPPが要求する包括的な障壁の撤廃が自国産業に与えるダメージを鑑みると参加は不適当と考え不参加、韓国においては既に主要貿易先国とFTAEPAという協定を締結済みで今更TPPに参加するメリットはないと判断した模様である。

この韓国が既に結んだFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)とは、貿易相手国との二国間協定であり、これを貿易を行う世界中の国々とこまめに結んでいくことによりお互いの貿易障壁を取り除くことが出来るものだ。韓国は通商立国でありこうした条約を相手国と結ぶことは死活問題であり当然のことだろう。

一方で日本はといえば韓国と同様の通商立国であるが、実は日本の関税は世界的に見てもかなり低く抑えられていて、そうした交渉が成り立つ土壌が存在していないようなのである。つまり1980年代に超貿易黒字国であった当時、外圧に屈して数々の関税を撤廃してきているので、相手国は日本へ低い関税のまま輸出できるのである。だから日本側が相手国の関税を低くさせようとしても既にこちら側の関税は低い状態なので、そちらの関税をまけてくれたらこちらもまけますといった交渉をするカードは既に失なわれている。それでも通商国として立派にやっていっているところが日本の凄さである。

こうした日本をTPPに引き摺り込むと米国にはどのようなメリットがあるかというと、それは小野寺議員がワシントンでもらった答に集約されているだろう。小野寺議員は「日本の関税に興味などない。金融を自由化して郵政民営化を推進しろ」と言われたと言っている。

TPPは包括的な貿易条約であるが、この場合の包括的という語の意味は貿易に関して一旦全てを自由化するという意味のようだ。その中には看護師や介護士、公共事業の入札、金融(勿論郵貯簡保も含まれる)の自由化なども含まれ、更に驚いたことに全ての公共入札は英語での告知を義務付けるので、例えば看護師も英語で可、市町村の文房具の購入も英語で入札の告知をしなければならなくなるという。巷間言われているように農業が打撃を受けるなどといったレベルの問題ではないことが分かる。

また現在貿易のルートは非常に複雑になってきていて、例えば日産自動車のマーチやトヨタの次期カローラなどは海外工場で生産し日本に逆輸入することになっている。現在は低いといっても一応は関税はかけられるのだが、TPP締結後関税が撤廃されると無税で日本に入ってくる。国内工場を閉鎖し海外工場から逆輸入しても企業にはデメリットはなくなるので工場の海外進出に拍車がかかり、国内の製造業は痛手を被ることになるかも知れない。工場の多い地方では失業問題の深刻化に拍車がかかるだろう。

つまり日本にとってのメリットなど甚だ薄いのがTPPなのである。単にAPEC議長国としてのメンツを立てたいだけの話だ。

こうなってしまうと正に米国による従米隷属化の完成である。これでは小泉政権郵政民営化をも凌ぐ驚くべき忠犬ポチ化である。高々APEC議長国としてのメンツを守るためにここまでおかしな条約に参加表明してしまうとは呆れてしまって開いた口が塞がらない。しかも事前に何の議論もなく官邸側の独断専行である。いきなり消費税を上げると言い出したり、政権交代時のマニュフェストを次々と反古にしていくなどもはや菅政権には目に余るものがある。

政権が菅内閣に替わってからおかしなことばかり起きる。弱体化して後がなく、それでも権力にしがみついていたいという卑しい性根が災いを招いている。そろそろ菅首相を選んだ民主党議員達も危機意識を持って、本当に国民国家のために行動を起こすべき時がきているように思える。

このビデオの中で田中康夫が言うように「米連邦に組み込まれてしまう」のがTPPの正体だろう。田中康夫新党日本が今ひとつ好きになれないという人も、一度このビデオを見てからTPPを評価する作業に入ってみては如何だろうか。

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