鳩山退陣によせて

今朝、緊急両議員総会が開かれ、鳩山首相が総理総裁の職を辞することが本人より発表された。

その時のビデオは下記のリンクから見ることが出来る。
【ビデオ配信】緊急両院議員総会 (民主党HP)

またテキスト化したものは下記のリンクから見ることが出来る。
“普天間”と“政治とカネ”の問題が政権を揺るがせた―鳩山首相、退陣表明演説 (Business Media 誠)

至極残念な結果なのは言うまでもないが、政権運営に甘さがあったことを考えるとこのような終わり方をするのも仕方ないのかもしれない。鳩山政権の掲げた理想は高く、しかし実際に行われた手法は稚拙だった。

友愛に代表される思想で、子供手当や高校授業料の免除などは実際に決定された。しかし高速道路の無料化は反故にされ、八ッ場ダム建設は続けるのかやめるのかハッキリとしなかったし、日本航空救済問題では多額の血税がつぎ込まれることになった。取り調べの全面可視化は野党時代に法案を提出していたにも関わらず実現されなかったし、クロスメディアオーナーシップ規制も議論の俎上に上っただけで実現からは遠かった。また記者クラブ会見の解放も最近になって漸く実現された。

これらはすべて政権交代さえ起これば実現できるのではないかと心待ちにしていた案件ばかりだったのだが、政権発足後8ヶ月たっても進展具合に不満が残るような有様だったのである。

そして普天間基地移設問題である。辻本国交通副大臣が辞任直後のインタビューで述べていたように、鳩山首相は当初はグアム・テニアン移設を推進しようとしていた。しかしそれが辺野古周辺への移設という自民党案に戻る結果となってしまい、米軍基地が県外・国外へと移ることに喜び沸き立っていた沖縄県民を落胆させる結果となった。

これは要するに「ガバナンス(統治能力)の不足」が招いた結果といえるもので、要するに政権の掌握力と実際の実務能力に欠けていたことを意味する。

しかしそれでも僕はこの政権を応援した。なぜなら、せっかく自民党から政権を奪ったのである。戦後長らく続いた既得権益者のみが総取りする社会を終わらせるきっかけになると思ったのである。政権発足当初の混乱は想定内であったし、それらは時間と共に安定し、やがてはしっかりとした民主主義の基礎が出来るのではないかと期待していた。

しかし旧来の既得権益を代表する官僚とマスコミは黙っていなかったし、米国も黙ってはいなかった。官僚は特捜を使って小沢ー鳩山ラインを失墜させようと画策し、その他の官僚は徹底して不服従の態度をとった。あるいはあの手この手で大臣などを丸め込むことに成功した。マスコミは80歳を超えるドンが民主党政権を追い落とすためなら金に糸目はつけないと咆哮し、その手下どもが息切れし始めると野中元官房長官が「評論家やジャーナリストに官房機密費を渡した」と暴露し、「ここで手を緩めるとお前らが民主党政権に喰われるぞ」と恫喝した。

米国は基地の問題などよりも、今後も忠誠を誓い金を貢いでくれる利権を手放したくないが故に鳩山ー小沢ラインを嫌った。鳩山の祖父は北方領土問題を段階的に解決する案を実践しようとして失脚したし、鳩山の息子は今もロシアの大学にいる。つまりはロシアンスクールと繋がりが深い。一方の小沢は田中角栄の頃からのチャイナスクールの資産を受け継いでいる。この二人がコンビを組むことは米国にとっては面白い事態ではない。郵政民営化で多額の郵便貯金マネーが米国に投資される寸前だったので悔しさは尚更である。

しかしそれがわかっているから尚更僕は鳩山政権を応援しようとした。巨大な敵に言論の力だけで立ち向かおうとしているような、そんな姿を勝手にダブらせてもいた。しかし、実際に起こったのは「ガバナンスの不足」という由々しき事態だったのである。

鳩山政権の統治能力のなさは平野官房長官の手際に代表される。記者クラブ会見のオープン化を阻害し、官房機密費の公開を渋り、普天間基地移設問題では問題をこれ以上ないほど拗らせてしまった。細川政権でも武村官房長官の裏切りが後々まで政権運営に響く結果になったが、平野官房長官の場合は裏切りではなかったが結果論として政権への追い風を向かい風に変えることになってしまった。

本質的にガバナンス能力に欠ける鳩山政権が、本気で政権運営をするためには、強力な援軍を味方につけなければならない。それは誰かというと国民である。昨年の衆議院選挙で民主党に300議席も与えた有権者のパワーである。それは何も大衆に阿(おもね)る衆愚政治を実現せよというのではなく、政権の中で何が起こっているのか常に明らかにし、それを広く国民に知らしめ、総理自らそれらの案件についてどのような処理をするつもりなのか説明していくというやり方でしか得ることは出来ない。共感を得た国民は永続的に鳩山政権にパワーを与えるはずだった。

しかし、閉ざされた奥の院に籠もった首相は常に説明不足で、閣僚たちは友愛をいいことにやりたい放題、中には閣僚でありながら首相を政治と金の問題などで批判する恥知らずな輩まで出現した。鳩山政権の支持率低下は普天間問題であるとか、政治と金の問題などと勝手に説明されているが、実はこうしたガバナンス能力の不足がもたらした混沌が、応援する国民の気持ちを一気に冷却してしまい、お互いの気持ちに齟齬が生じたことが原因である。

結局鳩山首相が退陣してしまうことは自業自得であるとしか結論を下せない。鳩山首相の掲げた理想には共感するし、もっと側近に恵まれていたならと残念でならないが、僕たちは夢を食べて生きているわけではない。今、目の前にあるものしか口に入れることは出来ないのだ。鳩山退陣は、その先にステーキがあるのに、目の前の漬け物しか食べられない現実の悔しさである。あと少しで手が届いたというのに本当に残念です、鳩山さん。でもここまでありがとう。

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