普天間基地移設問題の一つの結論として

量子物理学なんてまるでわかりもしないのに、宇宙はどうして出来たんだろうとか、ブラックホールってどうなっているんだろう、などという話を聞くのが好きである。話を聞いてわかったような気になって、しかし結局何も理解できていないので自分では説明できない。

量子物理学そのものには歯が立たないのだけれど、その周辺にあるエピソードに印象深いものが一つある。それは有名なスティーブン・ホーキング博士のエピソードだ。

たとえばアインシュタイン特殊相対性理論は、人類史上最大の発見の一つだけれど、その理論を現した数式は驚くほど簡単である。

E=mc² (E=mc2 “2は二乗”)

たったこれだけで、「質量が消失するならばそれに対応するエネルギーが発生する(エネルギーが発生する時にはそれに対応する質量が消失する)」ことを示すのである。

その後、量子物理学は宇宙がどうして出来たのか、いわゆるビッグバン以前の状態は何だったのかという問題を解き明かそうとし、そして仮説として有力な地位にあるのが超ひも理論と呼ばれる理論である。

そこでホーキング博士なのだが、どちらかというとこの理論からは一歩離れた立ち位置にいようとした。その理由がとても印象的だったのである。正確な引用ではなく、僕の曖昧な記憶の中から取り出してみる。

超ひも理論が現状でもっとも有力な理論であることは認める。しかしそれは複雑すぎてちっとも美しくない。真理はE=mc²の様にシンプルで且つ美しくなければならない」

昨夜、鳩山首相が総理官邸で記者会見を行った。内容は五月末までに結論を出すと言っていた普天間基地移設問題についてのものである。

もはや昨晩までに報道されるべきはされてしまい、それには外務官僚からの国家機密のリークなどもあったようだけれど、普天間基地移設先は辺野古周辺となることは周知の事実となっていた。但し、政府からの正式発表はなかったので、それが本当なのかどうなのか、そう決まった経緯はいったい何なのか、そこで発表されるはずのものだった。

その会見の模様はNHKでは一部だけ、インターネットではUstreamなどを通じてノーカットで放送され、僕はUstreamの方を見ていたのだが、回線状態が悪いのか途切れ途切れで、鳩山首相が喋っている内容も、質問者の問いもよくわからなかったのが事実である。

今、その会見の模様はノーカットでビデオニュース・ドットコムなどで無料で視聴できる。

そして今日、会見を見直してみたのだけれど、これがやはりよくわからない。「海兵隊には抑止力はない」と巷間言われているのだが、どうしてその海兵隊を温存するのかわからない。また、なぜ辺野古なのかもよくわからない。

しかし、この会見を見た後で少し考えてみると、辺野古移設という現行案への回帰というものは、自民党政権が決めた案へ戻ったという訳である。つまり、政権交代があろうとなかろうと、結局は辺野古だったという訳だ。

但し、自民党政権なら何ら逡巡なく辺野古と決めて終わり、だったものが、鳩山政権になるとこれがなかなか決まらなかった。それは何故かというと、辺野古以外の移設先を探していたということであり、沖縄の米軍基地負担を軽減するために何らかのアクションを起こそうとしていたということだった。

結局この問題を担当した平野官房長官の力不足や、鳩山首相自身の空回りなどもあったようで、情報は錯綜し、しかも伝えるメディアが嘘八百を平気で垂れ流す御用マスゴミであったりもして、自然とこの問題についてブログを書こうという気力が削がれていったのである。

先のホーキング博士の言葉を借りるなら、この間の情報の錯綜ぶりは「複雑で醜く決して美しくはないので真実というのに躊躇いがある」といった感じだろう。そして結論は一周回って元通りの辺野古移設。息を詰めて待っていた結果とはかけ離れている。

辺野古に基地を移設することが何を意味しているかというと、沖縄の人々の安全や平和を阻害し、環境を破壊するものであると同時に、日本という国はやはりアメリカによる隷属状態から抜け出せない運命にあるという悲しい事実である。

つまり、当初鳩山首相が持っていきたかった流れというものがあって、それはその祖父である鳩山一郎が唱えていた、日本の防衛は日本自身が行う自主防衛路線であり、アメリカとの安保で守られるとされる他力本願な防衛路線からの脱却だったのだろうと思う。

どうしてアメリカの核の傘によって保護される防衛ではいけないのかというと、まず安保というもの自体が形骸化していて、もはやアメリカは有事の際日本を助けないことは明白であるし、安保以降に結ばれた日米同盟においては宗主国としてのアメリカと従属国としての日本という関係がはっきりと結ばれていて、日本はアメリカが戦争するときは自衛隊を出し金銭援助をしなくてはならないし、日本人が勤勉に働いて得た富はアメリカに投資しなければならないというシステムを拒否できなくなるからである。

それでは独立国ではない。れっきとした植民地である。植民地であることを由とする国家に未来などない。しかし悲しいことに、これが現在の日本の現実である。

沖縄の基地を拒否すること、それは従属状態から独立状態へと国家の形態自体を切り替えようとする大事業である。これだけの大事業を政権交代して8ヶ月でやり遂げるのはやはり難しかったということだろう。

唯一の望みは、鳩山首相が会見でも言っていたように、将来への含みを残していることだろうと思う。これが隷属状態に満足しきっていた自民党政権とは違う部分である。鳩山由紀夫は1947年生まれで今年63歳となる。小沢一郎は1942年生まれで今年68歳である。どちらもこれだけの大改革を行うにはそろそろエネルギーの切れる年齢である。

はっきり言って、ここからは次の世代が責任を持つべき問題だと思う。鳩山小沢世代としては、自分たちが動ける間に次の世代のために道をつくっておくということで精一杯だろうとも思う。しかし、そのきっかけさえきちんと作っておけば、いつか近いうちに次の世代が引き継ぐだろうという希望である。

美しい数式に行き着くまでにはまだまだ時間がかかることだろう。現在はまだ混沌の時代である。ただ、現状を見誤らないようにすることが大事だと思う。

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