普天間問題は実は米軍基地移転問題ではなく日米同盟そのものの問題である

鳩山首相オバマ大統領が、先日の「核サミット夕食会」で10分程度話をしたのが「非公式首脳会談」と囃し立てられたわけだが、そこでオバマ大統領が責任問題を口にしたことが話題になっていたようだ。

「きちんと責任取れるのか」=米大統領、首相に疑問呈す−普天間移設
4月15日14時31分配信 時事通信

ワシントンで12日に行われた鳩山由紀夫首相とオバマ米大統領の非公式会談の際、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)移設問題の5月末までの決着を表明した首相に対し、大統領が「きちんと責任を取れるのか」と強い疑問を呈していたことが分かった。日米両政府の複数の関係者が14日明らかにした。
 それによると、首相は会談の冒頭、大統領に「日米同盟が大事だという考え方の中で移設問題を努力している。5月末までにきちんとやる」と解決を約束。大統領が疑問を投げ掛けたところ、首相は改めて5月末決着の意向を表明した。
 オバマ大統領の発言について、関係者は「鳩山首相に対する不信感の表れだ」と指摘した。

時事通信だの読売だの産経だの、とにかくあることないことこじつけて一生懸命鳩山政権叩きを仕掛けている報道機関の記事なので、わかっている人達は適当に流して読むレベルの記事だと思う。

一方ワシントンポスト紙がこの件を報じた際、鳩山首相を愚か者呼ばわりした件も話題となっている。

鳩山首相が「最大の敗者」「不運で愚か」とワシントン・ポスト紙が酷評
2010.4.15 01:07 産経ニュース

【ワシントン=佐々木類】米紙ワシントン・ポストは14日付で、核安全保障サミットで最大の敗者は日本の鳩山由紀夫首相だと報じた。最大の勝者は約1時間半にわたり首脳会談を行った中国の胡錦濤国家主席とした。鳩山首相について同紙は、「不運で愚かな日本の首相」と紹介。「鳩山首相オバマ大統領に2度にわたり、米軍普天間飛行場問題で解決を約束したが、まったくあてにならない」とし、「鳩山さん、あなたは同盟国の首相ではなかったか。核の傘をお忘れか。その上で、まだトヨタを買えというのか。鳩山首相を相手にしたのは、胡主席だけだ」と皮肉った。

どうやらアメリカでは鳩山首相普天間基地移設問題は袋小路に入り込んだと見られているぞ、今こそ国内で鳩山叩きをするチャンスだ、とばかりに日本のマスメディアもここぞとこのニュースを取り上げ、鳩山退陣説を撒き散らしているというのが現状である。

まぁ、マスメディアははやく民主党政権を崩壊させたい訳でいつものことだから特に驚きもしないけれど、そろそろいい加減にしないとヤバイですよ、このままだと大恥かきますよ、というのが今日のブログの趣旨である。

TBSラジオの「荒川強啓のデイ・キャッチ!」のポッドキャストを聴いてみる。4月16日のニュースランキングを聴取すると、宮台真司普天間移設問題の種も仕掛けも明かしている。(リンク先mp3は週明けには消去されます。始まってから23分40秒あたりから始まります)

ここでは「オバマ大統領が普天間問題で現行案履行を強く要求」というニュ-スについて、まず時事通信の政治部部長がこれを解説し、その後を受けて宮台真司時事通信解説を嘲笑うかのように大どんでん返しを演じてみせるのである。痛快無比である。

時事通信政治部長が凡庸でありきたりなマスメディア的解説をしたあとで、話題を向けられた宮台真司が鼻でせせら笑うところからが面白いのだが、要約すると以下のようになる。

アメリカは2005年以降太平洋の兵力をグアムに集中させることに決めている。海兵隊の一部に反対があるけれど、基本的な大枠はこの通りだった。しかし日本の中の既得権益の受益者達が米国に出て行かれては困るというので頼み込んで沖縄に米軍を駐留してもらおうとしていた。海兵隊が沖縄に18,000人いるように見せかけたりしていたののは全てこの連中の仕業で、実際には12,000人ほどしかいない。
アメリカが沖縄に米軍を駐留させ続けるために出した条件は、沖縄(辺野古)にて統合的な基地機能を提供すること、だった。それが出来ないのであればグアムに行くよ、ということだった。そしてこれがアメリカの本当の腹なのである。
アメリカの本当の腹は、鳩山総理も知っているし、辺野古案を拒絶したらアメリカはグアムに撤退するしかなくなるから、これを念頭に腹案と呼んだわけだ」

鳩山首相の頭の中では普天間問題という方程式の解は最初から解けているのである。

要するに、米軍に辺野古を提供できなければ彼らはグアムに移転するしかない、というのが本筋な訳だ。そのように考えると、普天間問題の当初から、鳩山首相が「トラスト・ミー」などと言ったり、「5月末までに結論を出せなければ責任をとる」などと言っていた理由がわかる。政権交代したときには既に方程式は解けていただけの話だ。民主党には米軍の沖縄基地利権で儲けている閣僚はいないだろうし、巨額な思いやり予算を今後もアメリカに支払い続ける余裕は政府にはない。

さて、このように話をすると、沖縄から米軍海兵隊などが出ていったら日本の安全保障はどうなるのか、と心配をする人が必ず現れる。この件に関しては、問題ない、とお答えできる。なぜなら、アメリカによる日本の安全保障など2005年の日米同盟で既に失われているのである。安保など実は過去の遺物で、現在は日米同盟という、アメリカの軍隊に自衛隊が組み込まれた状態にあるわけだ。だから、アメリカは日本有事の際、必ずしも日本を守るために戦うとは限らず、逆に日本は米軍の行くところどこまでも協力しなければならない。

この日米同盟については元外務官僚である孫崎享氏の「日米同盟の正体(講談社新書)」に詳しい。またジャーナリストの岩上安身氏によるインタビューが、そのホームページに載っているので以下抜粋してみる。

岩上「『日米同盟・未来のための変革と再編』、こんなことを知っている人、ごくわずかかもしれない」

孫崎「本当にわずかだったんです」

岩上「これがね、びっくりしまして。実は先日、岡田外相にこのことを質問したんです。今、外務大臣の会見がオープンになっているものですから、我々のようなフリーの者も出られるようになりましたから」

孫崎「ほー」

岩上「というのは、先日(1月12日)、ハワイで岡田外相はクリントン長官と会談してますね。日米関係がギクシャクしているんじゃないかと、マスコミにさかんに言われているこのさなかに、両外相が会談をすると。その直前の記者会見で、他の記者から色々質問が出た時に、『日米安保』とか『日米同盟』という言葉を混同しながら使っているのに気づいたんです。

 これに対し、岡田さんという方は、頭の良い、非常にきちんと言葉の定義を使い分けながらする方なんで、『私は安保とは言ってません。同盟と申しましたよね』と、記者の言葉を訂正しながら話していたんです。
 で、これはいい機会だと思いまして、手を挙げまして、『先程から「日米安保」ではなく「日米同盟」のあり方を見直すため、その話をするためにハワイでこれから会談を行うとおっしゃっていますが、そもそも、安保と同盟の違いは何か』。そこで孫崎さんのお名前を出して、『元外務省国際情報局長の孫崎さんは「日米同盟の正体」の中で、同盟と安保というものの違いは、まず、カバーする対象が、安保の場合は極東。ところが同盟の場合は世界中、アメリカの国際戦略のあるところ、どこへでも日本は追随する』と」

孫崎「はい、はい」

岩上「それから、『日本を守るというものから、アメリカの戦略に追随するものへと、その目的とか理念とか性質が変化してしまっている』と。『これはどういうことであるのか、我々は全然わかっていないんだけれども、大臣のご見解と定義を教えてください』と」

孫崎「ほー(笑)」

岩上「そうしましたら、岡田外相は、長く答えてくれたんですよ。私は3つあると考えると。従来から、60年代からある日米安保。50周年を迎えます。それから日米安全保障同盟。それから日米同盟。3つの概念だと。
 ちょっとそれは、やっぱり腑に落ちないところもあり、やはり口頭で話しているものですから。
 じゃあ、その3つあるというのを、それぞれの性格と、それを基礎づける文書とか条約というのは何になるんですかと、重ねておうかがいしたんです。そしたら、橋本さんの時代に交わされた条約、これがひとつ日米安全保障同盟の基礎になっていると。どうも岡田さん曰く、安保はみんな分かってると、日米安全保障同盟と彼が言っているものが、孫崎さんがおっしゃる『日米同盟』に相当して、日米同盟というのはもっと広い概念で、国家全体の文化も何も包括して両国が緊密な関係であるというようなものを含む、というふうに私は理解していると。こういう言い方でおっしゃっていました。

とここまでが岡田外相の見解の紹介であり、孫崎氏も異論はないようである。

次に孫崎氏が元外務官僚らしく、時間軸上に事実を並べ解説していく。

孫崎「まずね、今お話されたことの繰り返しになるかもしれませんし、本の繰り返しになるかもしれませんが、日本の多くの人に、日米関係の基礎は何ですかというと、それは安全保障ですと。ではその安全保障の基礎は何ですかというと、日米安保条約と、こういうわけです。今も日米安保条約の50周年で、記念をしてやっていきましょうと。ということですから、多くの人は、日米安保条約が基本的に日米を決めているものと、こう思っているわけですね。

ところがご指摘のように、一番明確なのは、橋本さんの時と、2005年と、やっぱり違うんです。どう違うかというと、橋本さんの時にはまだ、世界戦略というところに踏み切っていない。それから世界戦略とかつ地域を世界に展開するということと、それからアメリカの戦略と一緒になってやると、日米共通の戦略というものに対するコミットは橋本さんの時にはないんです。

だからもしも外務省が、いや、変質は橋本総理から始まっていると言えばこれは事実ではないんです。じゃあどこから始まったかというと、これは春原(すのはら)さんの『同盟変貌』(日本経済新聞社)という本がありますけれども、日経新聞の。2002年ですね。2002年にイラクに対して日本が入っていけということとセットに、この日米同盟案が出てきたわけです」

岩上「2002年」

孫崎「ええ、2002年、あるいは2003年ですかね。2003年、これから日本もイラクへ一緒に行けという話と」

岩上「イラク戦争に」

孫崎「イラク戦争とセットにして出てきて、この時の向こうの中心人物がローレンス(Lawrence Korb)。国防総省の次官補だと思いますけれども、対日関係ずっとやっていた。ということで、世界の戦略に、アメリカの戦略とともにあると、いくというものは、2002年の前にはそんなに明確な形にはなっていない。

で、それが交渉が始まって、ドキュメントとして出てきたのが2005年の10月。だから、そういう意味では2005年というのは大変な変革なんですけれども、外務省も防衛省も変革があったという説明はしていません」

岩上「そうですねえ。一般の人たちも全然知りません」

孫崎「一般の新聞も、私も全部調べたわけじゃないんですけれども、新聞記者に聞きますと、日経新聞が全文を(掲載して)印刷しているんです。印刷はしているけれども、解説はないんです。だから……」

岩上「意味が分からない」

孫崎「意味が分からない。意味が分かっていた人というのは、私はあの時日本にほとんどいなかったんじゃないかと。というのは、基本的にこの文書は、ご覧になってあるように、正文英語で、日本文は正文じゃないんですよ。ということだから、明確に英語を出してきて、それを日本が訳したと。こういう状況だと思います。それぞれの意味合いというものを」

岩上「安保条約はそうじゃないんですよね」

孫崎「もちろん、日米両方が正文ですね。ということで、基本的には米国が提案してきたものを日本が日本語に訳しているというので、日本語の文書でこの議論をしてもしょうがないことになっているんです」

岩上「ええっ!?」

孫崎「もちろん、日米両方が正文ですね。ということで、基本的には米国が提案してきたものを日本が日本語に訳しているというので、日本語の文書でこの議論をしてもしょうがないことになっているんです」

岩上「ええっ!?」

孫崎「仮訳です。日本語は仮訳なんです。日米同盟の、英語はちゃんとなっているわけですけれども、仮訳なんです」

岩上「これが意味するものはですね、どういうことなのか、というのは、我々には、すぐには分からないんですけれども、非常に一方的なアメリカへの追随の象徴のような感じがするんですけれど」

孫崎「私もそう思います。というのは、要するに、条約であったり合意というのは、両方が国家の利益、National Interest を出して、それで何といいますか、お互いの合意でもって出てくるわけですから。この雰囲気というのは、もう文書がそもそも向こうから出てきているということですよね」

ちょっと引用が長くなったけれど、興味深い問題が並んでいるので引用してみた。これを読めばわかるように、日本人が普通考えている日米安保というものは、誰も知らないままに(多分外務官僚だってよくわからないままに)日米同盟と呼ばれる別のものに変化変遷していったわけである。そしてそれは、日本の国土をアメリカが守ってあげましょうというものから、世界一強力な米軍による戦略活動を日本とその軍隊である自衛隊が一生懸命サポートしますという、不平等な同盟に成り果てていたというのが事実な訳である。

僕はこのあまりにも不平等な従米隷属状態に対し、鳩山政権は一石を投じようとしているのではないか、という気がしているし、先の宮台真司も同じようなことを言っている。

それは鳩山首相の祖父である鳩山一郎という政治家が、何を目指したのかを知れば容易に察しがつくだろう。鳩山一郎といえば1954年から1956年まで首相を務めた政治家で、その友愛精神が鳩山由紀夫首相によって再び提唱されているのだが、しかし政治家としてのスタンスは自主防衛論者であり反日米安保だった人である。

ウイキペディアの解説にも簡単に触れられている。

日本の独立確保という視点から再軍備を唱え、改憲を公約にしたが、与党で改憲に必要な3分の2議席には達しなかった。また、改憲を試みるために小選挙区制中心の選挙制度の導入を図ったが、野党からはもちろん、与党内からも選挙区割りが旧民主党系寄りという反対があり、「ゲリマンダーならぬハトマンダー」と批判され、実現には至らなかった。

この思想は鳩山由紀夫首相にも引き継がれている。元々鳩山由紀夫改憲論者だったし、自主防衛論を唱えていたのである。勿論これは鳩山一郎を踏襲したものだろう。

普天間問題をどのような角度で見るか、人それぞれ違うだろうけれど、米軍基地がなければ日本は戦争の恐怖に晒されると怯える人々の目と、米軍など当てにせず独自の軍備で侵略に備えるべきと考える人の目では、沖縄駐留米軍への評価は変わってくる。

僕は鳩山首相の考えは、鳩山一郎の路線を継承したものであって、つまり、どうぞ米国軍さん出ていってください、そうすれば日本は本当の意味で独立国としてやっていくきっかけになるのです、といったあたりだろうと思う。

日本が再軍備に向けて踏み出そうとすると東アジア周辺国への配慮が必要となるだろう。そしてその為の東アジア共同体構想が用意されている。これも鳩山首相が就任直後から口に出していたことだ。

このように考えると、鳩山首相が就任してからの方針は全て一貫したラインの上にあることがわかる。マスメディアはブレているなどと暢気なことを言っているが、いい加減な捏造記事を書いてブレまくっているのはマスメディアの方であって、もし本当に沖縄からグアムに米軍が移転したら赤っ恥をかくのはマスメディアの方であろう。

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