マスコミの描く世界と現実の世界

今年のベストセラー小説というと村上春樹の「1Q84」だろう。1巻2巻あわせて300万部とも400万部とも言われる部数が売れたという。出版社としては本を印刷しているというより、お金を刷っている感じだったろう。

この「1Q84」は1984年という現実の時間の流れのどこかでポイントの切り替えがあったらしく、主人公たちが気がつくと1984年と似てはいるがどこかにズレのある別の世界に放り込まれている。その1984年と似ているが違う状態を「1Q84」と名付けたものである。

今年は政権交代があったり、それを阻止しようとしたのか西松事件というおかしな事件が起こったり、テレビ新聞など捏造した報道の発信に余念がなかったり、2009年の日本も二つの世界があるように感じられる。要するにマスコミの報道する世界と現実の世界である。マスコミの発信している報道の中の世界は現実の世界とあまりに乖離しているので、新聞やテレビばかり見ている人達と会って話すとカルチャーショックを受けることが多い年だった。まるで「2009」と「200Q」といった感じである。

12月17日に金融庁亀井静香金融大臣の記者会見があった。いつものように記者クラブに対する従来ながらの会見と記者クラブには加盟していない雑誌記者フリーランス記者に対して行われる会見の二階建てなのだが、いつも後者の方が断然面白い。そしてこの日の会見も亀井大臣は記者クラブでは決して言わないであろう発言を縦横無尽にしたので紹介する。

亀井内閣府特命担当大臣繰上げ閣議後記者会見の概要(雑誌・フリー等の記者):金融庁

上記は金融庁のホームページで、その時の会見の模様が公開されている。ちょうど中程で、フリーランスの岩上という記者が普天間問題について質問しているのだが、そこからの亀井大臣の返答が白熱している。かなり長く話しているのだけれども、ノーカットでここに転載してみよう。

亀井「皆さん方は別だけれども、基本は、特に日刊紙ですよ。朝毎読(朝日新聞毎日新聞、読売新聞)とか産経も含めて、日刊紙が、今、国益を損なうようなことばかり言っているのですよ。前政権が、13年間かかってなかなか決めなかったようなことを、前政権が決めた辺野古ですか、鳩山政権が年末までにあそこに決めないと「日米関係がおかしくなる」と。ひどいところは「破局的状況になる」というようなことで、煽りまくっているでしょう。これは決定的に間違っているのです。インド洋での給油に反対をした3党が政権をとってしまったということなのです。今度の政権は、今までの、ポチ公みたいに何でも言うことをきくような、そういう自公政権ではないと。ある意味では同盟国ではあるけれども手強いと。しかし、アメリカの極東軍事戦略上、世界政策上においても、日本との同盟関係はアメリカにとって大事だと思っているのですから。どうやって日本との関係をちゃんとしようかと、アメリカが一生懸命思っているのに、日本のマスコミが「この政権が、前政権と同じようにやらないと大変だ」とやるから、アメリカは「ああ、そうか。そんなに新政権に気を遣うことはないのだな」と、「今までどおり、『やれ、やれ』と言えば良いのかな」と思い出した点があったのです。

 ところが、鳩山総理がきちんと、毅然として、「従属的な関係ではなく対等の形で、この問題は3党連立でもあるし、3党で協議をして、ちょっと時間をかけて、年内ということではないけれども、できるだけ早く結論を出したほうが良いわけですから、努力しましょう」ということをおっしゃった。当然のこと、当たり前のことを言ってしまった。それをまた日本の新聞は「日米関係は大変なことになる」と。私は、「何が大変なことなのか言ってみろ」と。そういうのが民主党の中でもいるのですよ。評論家なんかでも、「何が大変なのか言ってみろ」と。うにゃうにゃと、分からない。「いや、だけれども、機嫌を損ねたら大変なことが起きるのではないか」と。怯えているだけなのです。アメリカは逆に、日本との関係を、どうしたら新政権との間できちんとやれるかということを、少なくともホワイトハウスは必死になって思っているときに…。まあ、国防総省は軍事屋ですから別な観点があるが。

 そういう、この問題をおかしくしたのは、日本のマスコミが一周遅れだからなのです。もう政権が変わったというので、アメリカの考え方が変わってしまっているのですよね。だから、総理がそういう3党の話し合いに基づいて、ああいうことをアメリカに通告したと。別にアメリカは、そうだと思っているだけのことなのです。今後、お互い熱心に、誠意ある話し合いを続けていこうというのがホワイトハウスの考え方、当たり前のことなのです。そういう意味では、日本のマスコミはポカーンと、唖然としているではないですか。「もっとアメリカが怒ってくれないかな」と思っていて(笑)。そう思わないですか。こういう、馬鹿げた倒錯現象が起きている。占領ボケなのですよ、マスコミの占領ボケ。

夕べ、私は渡邉恒雄(読売グループ本社代表取締役会長)さんや評論家の皆さん方と夕食を食べたのですけれども、評論家の皆さんは同じようなことを言うのです。ガンガンと、ご飯をごちそうになりながらバンバン言い合ってしまったのですけれどもね。本当に、「私はどこにいるのか」と思ってしまいましたね。やはり、ここは日本なのですよ。そのことをみんな忘れてしまっているのですよね。

 もともと安全と騒音の問題ですよ。普天間の場所というのは、普天間で騒音と安全に問題があるということで、どこかに移そうじゃないかという話になったわけでしょう。そうしたら、それが辺野古ということで前政権が一応あれしたと。そこに移すか移さないかだけが問題にされてしまって、問題は騒音と安全をどう解決するか、ということ、これが基本的な問題なのです。そのために県外が良いのか国外が良いのか、県民がそれを望んでいるのであれば、そういう努力をすると。しかし、それは県内でなければいけないという場合があるとすれば、沖縄県の方々の理解と同意を得なければいけないわけですから。そういうことも含めて、広く、今後この問題を決着する努力を3党で協議してやろうと言っている。「雲がないときは天気が良い」と同じことを言っているのです。ちょっとおかしいですよね、皆さんそう思わないですか。

 だから、私は、今の子どもたちみたいに純粋な頭を持っている人間が、子どもたちが考えたら、大人たちは馬鹿げたことを一生懸命、「大変だ」、「大変だ」と言って大騒ぎしていると思いますよ。アメリカだってそうなのですよ。下地(国民新党政調会長)が偉いのは、(アメリカに)日帰りですよ。泊まらないで行ったのです。安全と騒音のことで行ってきましたよ。だから騒音とか安全の軽減、いわゆる具体的な軽減をする方法について、「アメリカとしても、そういうことも考えるよ」ということを引き出したというから。だから、日本は、基本はそう言っているけれども、アメリカも、「問題の本質は安全と騒音なのだな」と分かっているわけですよね。だから、下地(国民新党政調会長)が行ったら、その問題を出してきたと。

 日本がいかれているのです。」

金融庁で金融大臣が普天間問題について質問され答えているところに違和感があるのだが、これは国民新党の党首として答えているということだろう。僕はその政策の全てに同調するものではないが、この時の亀井大臣の答えを見て快刀乱麻を断つような思いを持った。

この少し後で日本インターネット新聞社の田中龍作という記者が質問しているのだが、ここではさらに突っ込んでマスコミを批判している。とても面白いのでこの時のやりとりを以下に転載する。

田中「日本インターネット新聞社の田中龍作といいます。

 普天間の件ですが、亀井大臣がおっしゃっていることと類似したことを岡田外務大臣もおっしゃっていまして、「ルース駐日大使が顔を真っ赤にして怒った」というふうに、一部のメディアは書かれているのですが、「ああいうことは一切なかった」と言うのですよ。「これはもう新聞社の創作だ」と言うのですね。具体的に言うと、「産経新聞の創作だ」と言うのですが、全くそのとおりだと思います。アメリカの米軍の機関紙のスターズ・アンド・ストライプスというのも「我々は日本政府には圧力をかけていない」と言うのです。にもかかわらず、今、大メディアがこんな「大変だ」、「大変だ」と言うのは、大臣はどこら辺の勢力がこれを書かせているのだと思いますか。」

亀井「いや、大新聞自身が、自分たちが狂っているのですよ。大新聞が狂っている発信元なのですよ。私は本当にそう思いますよ。結局、一周遅れなのですよ。占領時代と同じ考え方なのですよ。「アメリカの機嫌を損ねたら、日本は大変なことになる」と。「何が大変なことが起きるのかと言ってみろ」と。だって、この間、日米航空交渉は妥結したでしょう。あれによって、その中身が少しでも日本に不利になったことがあるのかと。アメリカがそれで怒って強硬になって、あえて邪魔をしてと(いうことは)ないわけでしょう。そういう(ことが)、あるはずがないのです。経済政策を変えるわけにいかないでしょう。

 私は5月にワシントンに行ったときに、(日本の)新政権が気に食わないといって、「在日米軍を使って倒せるのかい」と(笑)。そのときに私は教えてあげたのです。「だから、CIAがこの私を暗殺せんと、新政権はあなたたちの思うようにならないのだぞ」と言ったら、こういう顔をしていたけれども。何もできないのですよね。あと、アメリカにとって、日本は大変な大事な極東における同盟国なのですよ。日本にとって、アメリカが大変な(大事)な同盟国であるのと同じようにね。そこなのですよ。だから、日本がリーズナブルなことをやって、誠意を持ってやる限りは、直ちにアメリカの要求が、直ちにそのまま満足できることがなくても、日本の新聞が期待しているように、アメリカが子どもみたいにウワッとやったり、ダァーッとやることはないのですよ。」

田中「とはいえ、辺野古にできることによって、懐がとても豊かになる人たちが日本の旧政権にも、アメリカにもいますよね。渡邉恒雄(読売グループ本社代表取締役会長)さんとか、そういう人と仲が良いですよね(笑)。それは関係があると思いませんか。」

亀井「どうですかね。私は夕べ、渡邉恒雄(読売グループ本社代表取締役会長)さんとご飯を食べたけれども、そんなこと言ってなかったですよ。」

田中「そうですか。」

副大臣「だから、そういう質問も裏付けがないでしょう。だから、おっしゃるけれども、渡邉(恒雄 読売グループ本社代表取締役会長)さんが、本当にそういう仲が良いと、風評だけれども、誰も事実を確認しないで質問するでしょう。

 それで、1点だけいいですか。産経新聞はひどいですよ。私もやられたけれども、それから今日、また昨日、北朝鮮のサッカーチームが入るか入らないか、ということで、武正(外務)副大臣が、「スポーツだから入れてやってほしい」というふうに発言したと載っているけれども、私はそこに一緒にいたけれども、そんなこと一言も言っていないですからね。もう、なぜああいう…。」

田中「ねつ造ですか。」

副大臣「ねつ造ですね。多分、武正(外務副大臣)君は、今、抗議していると思うけれども、本当に、大新聞の、もうクレディビリティー(信頼性)には、大いにクエスチョンマークが入りますね。だから皆さん、ぜひ頑張ってくださいね(笑)。」

亀井「彼らは、やはり自信がないから、「あなたたちと一緒の記者会見は嫌だ」と言うでしょう。彼らは、自分たちがあなたたちよりレベルが低いという自覚があるから一緒にやりたくないのだと…。」

横から副大臣(この時出席した副大臣は誰だろう)も出てきて産経新聞を名指しで非難しているのがとても面白い。先日の岡田外務大臣とルース米大使との会見で、ルースが顔を真っ赤にして怒ったなどといい加減な嘘をばらまいたり、今回の北朝鮮サッカーチームの入国問題など、この世で実際に起こっていないことがさも起こったかのように記事にされている。これこそ2009年ではなく200Q年の出来事であると言えるだろう。

どちらにせよ、ここまで名指しで非難されたのだから、産経新聞は何らかのアクションをみせなければいけないだろう。このまま逃げては報道機関として面目が立たないだろう。売られた喧嘩は買おうね。少なくとも、産経新聞に広告を出しているスポンサーは、下手をしたら虚位報道に荷担したスポンサーというレッテルをネット界の住民に貼られることになるので用心した方がよいだろう。

またこの亀井大臣の会見録を読んだ後で、昨日報道されたヒラリー・クリントン国務長官藤崎一郎駐米大使を呼びつけて恫喝したように報じられた件を再考してみると味わい深いものがある。

米国務長官「普天間、日米関係に影響」駐米大使に伝達(朝日新聞)

この件に関しては昨日のTBSラジオ「荒川強啓のデイ・キャッチ!」の中で、小西克也が述べていたのだが、これは普天間問題について以前鳩山首相と話をした内容と、日本で報道されている内容があまりに乖離しているので、真を質すために駐米大使と連絡を取ったということが正しいようである。つまり、捏造を繰り返す報道機関は国家の外交戦略をも妨害し、国益を損なおうとしているのである。(デイ・キャッチのリンクは本日夕方には新しいものに更新される)

こうまで報道の捏造が続くと、僕のような一般人は、村上春樹風に言うなら「やれやれ」と肩をすくめてみせるしかない。