官僚とマスコミとの戦争、三者三様で始まる。

日本憲政史上初めてとなる政府記者会見の一般開放が昨日外務省で行われた。

フリーやネット記者が参加する「歴史的な日」 外相記者会見のオープン化が実現 (J-CASTニュース)

この英断を指揮し実現させたのは岡田外務大臣であり、先ずはその健闘を讃えるべきだろうと思う。

しかし本来は政権交代によって政府記者会見の全てが一般のジャーナリストに開かれるはずだったのだが、諸事情によって漸く外務省だけがその公約の実現にこぎつけたわけである。

いまだに鳩山首相の会見は記者クラブ加盟の大手マスコミによって仕切られている。一部外国メディアや雑誌などの記者も記者クラブ主催の会見に入ることは出来るが質問等は認められていないようで、これは国際常識においてはクローズドな会見といえるだろう。

外務省が記者会見を一般記者にもオープンにしたことの意味は大きく二つあると思う。先ずは公約の実現であり、二つめに今後予想される官僚との戦争において、記者クラブに依存しない記事をメディアから発信させようという狙いだろう。特に後者は外務省改革にとって特に重要だと思うのである。

というのは、外務省のこれまでの行いというものを見ればよくわかることである。小泉政権時代国民的人気を誇った田中真紀子外務大臣を排除するために鈴木宗男を使い、田中真紀子排除に成功するや鈴木宗男を失脚させ、同時にこの両者の政治生命すら絶とうと画策した。そのとばっちりを受けて東郷和彦佐藤優といった優秀な外交官までも失脚或いは逮捕させ、さらには辻本清美も議員辞職に追い込まれたことなどまだ記憶に新しい。

自らの保身を謀るため政治家を失脚させ政治生命を奪い、幾人もの同僚までをも裏切ったこの事件を顧みると、外務省はモラルの欠片も持ち合わせていないことがよくわかる。また岡田外務大臣が11月末までという期限をつけて再調査を命じた日米核密約や、北朝鮮拉致事件を巡る国民の安全をないがしろにしてきた姿勢など正に突っ込みどころの多い役所が外務省なのである。

今まで外務省改革という掛け声は散々聞かれたのだが、自民党政権は掛け声だけで半歩の前進すらなかった。自民党の有力政治家も外務省利権に群がっていたので当たり前と言えば当たり前である。一方で漸く政権交代を実現し、政策の実現に向けて筋を曲げない「原理主義者」と揶揄されることもある岡田外務大臣が、早速記者会見の一般ジャーナリストへの開放を決めたということは、岡田克也という政治家のの良い部分が出たと思う。

今後岡田外務大臣の外務省改革に異議を唱え、これまでのようにトラップを仕掛けようと画策する外務官僚は、記者会見で自らを守ってくれる記者クラブを当てには出来ない。下手なことをすると調査報道という執拗な追求による破滅の可能性があることを肝に銘じておくべきだろう。

記者クラブというのは政府や官僚の発信したニュ−スのみを報道させるのに都合の良い機構である。記者クラブ所属報道各社も取材が楽になるのだが、政府官僚側の方が情報統制をすることが出来るのでよりメリットがあるのだ。ここを切り崩すと勝手な情報統制が出来なくなり、原則的に報道の競争が始まる。競争の過程で憶測や虚報は淘汰され、やがて真実が現れることになるだろう。

さらには外務委員長に就任したのがよりによって鈴木宗男である。自分たちが追い落とした猟犬が、今や復讐の鬼となってフリーハンドで襲ってくるわけである。上を見れば原理主義者の岡田大臣が蓋をしているし、下を見ると鈴木宗男という腹をすかせた猛犬がいる。隙間から逃げようとするとフリーランスのジャーナリストの餌食である。

斯様に外務省は詰み将棋の最終局面の様相を呈している。鳩山組閣で最も綺麗に技が決まった状態にある。

岡田外務省が良質に見える発進ぶりだったのに対し、官僚トラップに正面から突っ込んでいったように見えるのが長妻厚生労働大臣である。

大臣に就任して初めての登庁となった新旧大臣引き継ぎの日、通常なら新大臣を出迎える官僚達の出迎えはなく、勿論拍手のひとつもなかった。その一方で退庁する舛添前大臣は拍手喝采で送られた。どちらの大臣が官僚達にとって都合の良い人間であったのか一目でわかるシーンなのだが、そのような比較をする報道は見当たらなかった。

その長妻大臣が、初めての省内閣議出席の時、出迎えた公用車が渋滞に巻き込まれ5分程度の遅刻をしたことが報道された。厚生労働省は記者会見を一般ジャーナリストに開放していないので、長妻大臣が遅刻したというネタは厚労省官僚から記者クラブを通してそっと伝えられたようである。その意図は明白であり、長妻大臣の評判を何としてでも堕としてやろうという浅ましい考えである。

前任者の舛添氏が語っていたように、厚労省というのは、厚生省と労働省が合併して出来た役所であり、医療、年金、労働問題等、今問題となっている懸案を多数抱える省である。よって仕事量が多すぎて大臣は3人は必要だ、といわれている。

もうすぐ秋の国会が召集されることになるが、野党となった自民党の策略は長妻大臣を質問攻めにすることに尽きるだろう。質問範囲が膨大であるのに加えて官僚からのアシストがあまり期待できない長妻大臣を窮地に追いつめることは、自民党にとってそれほど難しいことではないだろう。

そこで官僚は長妻大臣を助ける代わりに、何らかの見返りを期待することになるかも知れない。長妻大臣が官僚との取引に簡単に応じることはなかろうが、国会答弁に追われるというタイムリミットぎりぎりのなかで、知らず知らずのうちに官僚の策に嵌ることは十分考えられるシナリオである。また長妻大臣を時間の余裕のない状況に追いつめて、自分たちへの追求にとりかかる余裕を削ぐことも官僚は頭に入れていることだろう。

僕は長妻氏は今回の組閣で厚労大臣に就任しない方が良かったんじゃないか、という気がしている。副大臣や、或いはフリーハンドで厚労省を追求できる立場にいた方が持ち味が出たように思うのである。勿論これは僕の思い過ごしかも知れないし、そうであって欲しいと思う。

そして文字通り官僚に振り回されているように見えるのが前原国土交通大臣である。

国土交通相厚労省と同じく問題山積の役所である。八ッ場ダム日本航空、高速道路料金無料化など、民主党マニフェストの目玉が並んでいる。

先ずは八ッ場ダムなのだが、建設目的も既に風化し現状にそぐわないものとなったこのダムの建設事業費は4600億円(水源地域対策特別措置法事業と水源地域対策基金事業も含めると約5900億円)とされている。その予算の既に7割は消化しているにもかかわらず、ダム本体はいまだに建設未着工である。この事業費も当初予算の倍に膨らんでからのもので、その7割が既に消化されていまだに何も出来ていないというのだから恐ろしい話だ。一体予算の7割はどこに消えたのか。

そのようなダムにこれ以上の血税を投入することは道義的にも許されないことで、それを中止しようと訴えた民主党マニフェスト自体に間違いはない。しかし、このダム建設によって立ち退くことが決まり、その保証金を当てにしている住民などがいることも事実である。彼らはダムを建設するからということで泣く泣く立ち退きを受け入れた人々という立場である。だから、先ずは彼らと今後について話を詰めておくことが道理なのだが、前原大臣はそこをすっ飛ばして「マニフェストで中止といっているのだから」と、官僚よりも官僚的なやり方で一方的に中止を通告してしまった。

おかげで地元住民の代表たち、その多くは何らかの政党や政治結社をバックに持つ人々が多いようだが、彼らを活気づけてしまい、報道各社がさらにそれを煽る結果となった。多くの国民はダム建設中止を支持するだろうが、あまりに報道が立ち退き住民寄りの立場から出されるので戸惑ってしまい、ちょっと待てよ、という思いに変わってきてしまったようである。

何せ一般の人々というのはいい加減な報道であってもそれを鵜呑みにする。西松事件の例を思い出すまでもなく、報道が熱狂的に何かを訴え始めたら同じように熱狂しないと気が済まない。高速道路料金無料化だって報道が無料化はおかしいと言い続けてきたおかげで、その効力に疑問を持つ人が多く発生した。

要するに前原大臣は手ぐすね引いていた報道各社にネタを与えてしまったのである。こうなると前原大臣の完敗である。最終的にはダムは建設中止となるだろうが、報道が騒いだおかげで住民への保証金は上積みされ、解決までの期間も長くなるだろう。

実はこの経緯に国交通省の官僚が絡んでいるといわれている。わざと前原大臣を持ち上げ、立ち退き予定の住民の神経を逆なでさせるようなことを言わせ、その旨を予め報道各社に伝えていたのだという噂である。噂なので本当なのかどうなのかわからない。どうせこうしたことは永遠にわからないのだが、ここでも官僚に都合のいい報道だけが流された疑いがあるのだ。

ダム問題では日本新党党首の田中康夫というスペシャリストが民主党周辺にいるのだが、残念なことに前原大臣とは水と油な体質である。多忙である大臣は、田中康夫三顧の礼でもって迎えて、ダム問題にあたってもらったら如何だろうか。前原という人はそうした度量に欠けているように思うのである。

また日本航空の問題もある。それまでの放漫経営と手厚すぎる従業員への福利厚生費の負担、そして国策であった地方空港赤字路線の維持のため莫大な負債を背負った日本航空は、今年の年末までに2000億円の資金を調達せねば債務不履行となりかねない状況に追い込まれている。

かつての自民党政権は、今年だけでも数千億円の政府債務保証を与えて日本航空の破綻を食い止めてきたのだが、もはやそれも限界に近づき、国交省官僚の思惑としては外資であるデルタ航空などから5億ドル程度の融資を受けて食いつなごうとしたようである。

このやり方は血税を投入した長期信用銀行を米リップルウッドに安値で売り飛ばし、新生銀行として外資を儲けさせた小泉竹中流を彷彿とさせる。

日本航空問題というのは、オバマ大統領にとってのGMクライスラー問題と同じようなものである。オバマ大統領は結局一旦それらレガシーな自動車会社を潰し、会社更生法のような法律で良質な部分のみを掬って救済することを選んだ。鳩山政権も、長銀型ではなくGM型の救済をしなければならないはずなのだが、前原大臣は破綻を回避させることを選ぶようだ

斯様に三大臣三者三様の船出である。先手を打った外務省を除いて、どの大臣も官僚とマスコミに翻弄されている。政府自体もいつまでもぐずぐず言っていないで、さっさと記者会見くらい一般のジャーナリストに開放しないと官僚のペースに嵌ってしまいかねない。

官僚による落とし穴は思ったより沢山掘られているようで、鳩山政権は注意が必要である。