平野貞夫著「わが友・小沢一郎」を読む

このブログは、今年3月3日に当時民主党党首だった小沢一郎の公設秘書である大久保氏が、東京地検特捜部により逮捕されたことに憤りを感じ、何か自分なりに意見を整理しようという目的で作ったものである。

大久保秘書の逮捕理由は、寄付を受けた政治団体がゼネコンの西松建設のダミーであることを知りながら、政治団体からの寄付と偽って政治資金収支報告書に記載したという「虚偽記載」の疑いだった。

これは、既に植草一秀氏のブログなどで細かく説明されているのだが、全く犯罪性のないものである。東京地検特捜部は大久保氏が、政治団体による政治献金をうけ政治資金収支報告書に記載したという、法律に則って処理された至極当然な行為を強引に犯罪と結びつけた。

さらには取り調べで大久保氏が自白を始めたなどと虚偽のリークを行い、それをマスコミが大々的に取り上げ、またさらには東北地方のダム建設等に於ける小沢一郎の口利き圧力などといった、何の証拠もない風説を捏造し、マスコミがそれをさらに煽る報道を行った結果、民主党の支持率は僅かであったが低下し、5月には小沢一郎は党首を降りることになった。

この流れの中で、政権交代を阻止しようとする権力側の陰謀が透けて見えたのである。あまりに暴力的なやり方、モラルを欠いた政治劇が近代国家の中で行われた。東京地検特捜部とイメージが重なったのは戦前の特高警察である。特高が21世紀に蘇ったことに僕は戦慄を覚え、そのあまりに反今日的な状況にいよいよ日本は崩壊してしまうのだと恐怖や焦りのような感情に襲われたのである。

いきなり犯罪者のように仕立て上げられた小沢一郎は、マスコミが東京地検特捜部の出鱈目なリークを流し続け、小沢辞任と反民主を煽ったマスコミよる大中傷合戦の最中、真っ向からこの反国家的イデオロギーをまき散らす権力の狗どもに戦いを挑んだのである。

先ずは、公設秘書逮捕時の記者会見において、「法に反することはやっていない。検察のやり方は政治的にも法律的にも不公正だ」と検察を厳しく批判した。そして2ヶ月間、辞任を強制するかのような報道の嵐の中、代表職に留まったのである。

実を言うと僕はそれまで小沢一郎に対して、政治家としてそれほどの期待をしてはいなかった。「豪腕」「尊大」「利権」などといった、勝手に作られたイメージで小沢一郎を見ていたのである。それが、この会見から一気に小沢一郎を見る目が変わった。そして僕は小沢一郎のファンとなった。

僕は以前よりマスコミの報道には疑問を感じることが多かったし、検察による立件や起訴にも納得がいかなかった。マスコミの馬鹿げた煽動報道によって靖国神社従軍慰安婦などといった問題が持ち上がり、日本が極東アジアで孤立化した原因になったように思うし(勿論それに対処できなかった政治家や外務省の責任が大きい)、植草一秀を冤罪をでっち上げ逮捕し、鈴木宗男佐藤優等を国策捜査で逮捕し、その後ホリエモン村上ファンドらを潰して安易に庶民の喝采を得ようとした。

つまり、大本営発表特高の復活である。そしてそれに小沢一郎が真っ向から立ち向かったのである。

一方で、小沢一郎に対して解せない部分も残っていた。先の「豪腕」「尊大」「利権」などといったキーワードに繋がるイメージである。また、どうして小沢一郎から次々と政治家が離れていくのか、といった疑問も残る。

その疑問に答えようとするのが、平野貞夫著「わが友・小沢一郎(幻冬舎・1500円+税)」である。平野貞夫衆議院事務局職員から、園田直副議長秘書、前尾繁三郎議長秘書などを経て、参議院議員となり、自民党新生党新進党自由党などから民主党へ合流し、2004年に政界から引退した。衆議院事務局から議長秘書という、与野党を問わぬ対応を迫られる職を長年に渡って経験し、その付き合いの幅は政治思想に関係なく広い。その中でもとりわけ深い付き合いとなったのが小沢一郎であり、政界を引退しても「わが友」と呼べる間柄となっているのである。

この本には小沢一郎に対する赤裸々な批判もあるし、一方で小沢一郎の人格を賞賛する部分もある。それらを読んで何と思おうと個人の自由である。ただ、一旦この本を読むと、西松事件から遡って、自自連立や、細川政権や、海部内閣から田中角栄に至る日本の本当の政治の潮流を一望することが出来る。また何より肝心なことは、一望すると全ての辻褄が合うのである。先の小沢一郎に対するイメージ操作に対しても、結局それが風説の流布にすぎず、それらを信じることは即ちB層の証であると断言しよう。

結局小沢一郎批判というものは、小泉政権郵政民営化のようなもので、物事を深く考えようとしない人々に対して刷り込まれた虚像に過ぎない理由が分かる本である。平野貞夫の著作に関しては、「平成政治20年史(幻冬舎新書・840円+税)」や「虚像に囚われた政治家 小沢一郎の真実(講談社+α文庫・800円+税)」も一読に値するが、今のところ西松事件について決着をつけているのは本書だけである。

小沢一郎を好きな人も嫌いな人も、これを読んでから議論を始めるべきだろうと思う。