説明責任を叫ぶ無責任

中田カウスという漫才師がいる。中堅どころの漫才師だと長い間思っていたのだが、知らない間に吉本興業の取締役に就いていた。吉本興業というと今や上場企業である。その取締役になるなんて、よっぽどビジネスに対して明るいのだろうと普通は思う。

数年前、週刊誌等に中田カウス暴力団と繋がっていて社長人事などに口を挟んで吉本興業もてんやわんやの状態になっているように報じられた。検察も暴力団繋がりの捜査で中田カウスを逮捕するような気配だと報じられた。その後中田カウスは取締役を辞任した。そしてこの件は何の進展も見せずいつの間にか立ち消えになった。

今年の1月9日、中田カウスの乗る乗用車が金属バットを持った男に襲われカウスは軽傷を負った。そして今月6日、自宅に脅迫文が送られてきたとして記者会見を開いた。中田カウスは一貫して暴力団との繋がりを否定し、なぜこのようなことになったのか分からないと釈明し続けている。

大阪の夕方からのワイドショー番組に「ちちんぷいぷい」という番組がある。ある時、その番組を映しているテレビの前を通りかかって、ふと立ち止まって暫く画面を見ていた。元アナウンサーの角淳一が司会をしていて、落語家の桂ざこば桂南光桂きん枝、元漫才師の太平サブロー、そして中田ボタンらが出演していた。中田ボタン中田カウスの相方である。今もコンビで漫才をしている。そのほかに政治評論家なども出演している。

その日の話題は小沢一郎公設秘書逮捕事件で、彼ら司会者及びゲストの芸人達はしたり顔で政治と金に纏わる話をしていた。結局小沢一郎の何が腑に落ちないか、という話題となった。するとある落語家が「小沢一郎は説明責任を果たしていない」と言い始め、出演者全員が「そうだそうだ」と頷き、司会者は「小沢一郎は説明責任を果たすべきだ」と言って番組を締めくくった。

中田カウスの相方の中田ボタンは、相方が週刊誌に載り、次々と巻き起こる事件の渦中にいることに対して、一度でも納得のいく説明を行ったことがあるのだろうか。それがこの番組では「説明責任」と声高に叫ぶ側についている。

彼らは芸人であり、芸を披露するのが身上である。落語なり漫才なりを演じれば相当のレベルにある人々である。その彼らに政治を語るな、というのではない。発言に責任を持てない人々にテレビなどで語らせるな、と思う。彼ら芸人は中田カウス・ボタンの例を出すまでもなく自らに対してさえ説明責任を果たさない。所詮芸人と言われても仕方ないだろう。

小沢一郎は公設第一秘書が東京地検特捜部に逮捕されて以来何度も記者会見を行っている。その会見に納得できないと思うのは人の勝手である。でも、いくらワイドショーとはいえ放送で政治を語るなら、その記者会見に対しての具体的な批判でないといけないだろう。その中のどの部分を批判するのか、その理由はなぜか、と説明できなければ無責任すぎる発言でしかなく、視聴者をある一定の方向へ扇動するだけの大衆操作である。

僕は小沢一郎は現状で出来るだけの説明責任を果たしていると思う。あの会見を見て、これ以上の説明が必要だという意見があるのは分かるけれど、それならどの点が腑に落ちないのか具体的な意見が必要だろう。いやしくも公共の電波を使っているのである。

そしてこのような低俗な番組を平日の昼間に見ている層に世論調査の電話がかかってくるのである。するとつい「小沢さんはちょっとねえ」と答えてしまう。

かくして煽動報道が完結するのである。これが日本の実態である。