菅政権は前原外務大臣に寄生された母体にすぎない

17日、代表選で選ばれた菅首相が組閣を行った。その顔ぶれについて様々な論評を目にするのだが、本質的な特徴を一つ挙げると「前原の大抜擢」に尽きるだろう。それは政権交代以前からはじまる幾つかの流れが合流し本流になろうとしている兆候である。

今日のブログはその点を考察するのがテーマである。ジャーナリストでもない一般の市井による個人的な考察なので間違っているかも知れない。しかしこれを否定する材料を持つ人はいないはずである。何故ならば否定する材料は日本には存在しないからだ。

まず菅=仙谷ラインなどは重要ではない。小沢支持派に悪魔の権化のように言われている仙谷官房長官も特に重要なプレーヤーではない。元々弁護士から社会党なんぞに入り野党暮らしをしていた田舎政治家である。いきなり官房長官になって好き放題など器用なことは出来まい。大きなパワーの上に乗っかっているだけである。ましてや菅などその田舎政治家に利用されているだけだ。菅内閣というものはその大きなパワーの上にちょこんと座しているだけの「馬糞の川流れ」のようなものだ。

大きなパワーというのは前原を国交通大臣から外務大臣にした権力のことである。これはアメリカ様の意向というものだ。

さて仙谷官房長官は代表選で勝ってからも執拗に小沢排除の手綱を緩めない。菅改造内閣の組閣を見てもわかるとおり、代表選で小沢を支持した人々は徹底的に排除されている。唯一の例外は海江田万里であるが、海江田は小沢グループというよりも鳩山グループに近く、その経済政策を利用したいだけなのだろうと思う。

マスゴミ報道などを見ると何時小沢グループは人事の冷遇をうけて党を割るのかとハラハラしてしまうのだが、これは小沢に党を割ってもらった方が都合のいい連中がマスゴミを煽って記事を書かせているだけだろう。小沢はわかっているから出て行かない。それどころか小沢グループは粛正人事に愚痴一つこぼさず口を開けば「挙党一致」を唱えている。これは大きなヒントである。

実は民主党代表選の最中、野党である自民党はひっそりと党の役員人事を刷新した。もはや政権に返り咲くことなど120%不可能な自民党の人事などニュースバリューもなくあっさりとかわされたのだが、幹事長に石原伸晃氏を起用、石破茂政調会長を続投、総務会長に小池百合子氏を起用、となればあるシグナルを感じることが出来る。

彼らは小泉政権から始まった日本のネオコン政権のプレイヤーの面々なのである。このネオコン派のプレイヤーは自民党だけではなく民主党にもいて、その代表格が前原誠司外務大臣である。民主党ネオコン派と自民党ネオコン派が共に浮上してきている。そして民主党では反ネオコン派とも言える小沢グループを切り捨てる動きが明白に出てきている。

つまり民主党から反ネオコン派である小沢グループが出て行くと、残された民主党ネオコン派と自民党ネオコン派は親和性が高いので大連立を組むことが容易くなる。また、これで参議院に於ける民主党少数という頭痛の種も解消されることとなる。一方で自民党と組むことには世間からの反発が予想される。だから小沢グループにはさっさと党を割ってもらって菅内閣に国会で立ち往生させたいわけである。すると追い込まれた内閣が当初は自民党と政策でくっつき、やがては完全に合流する筋書きが出来上がる。その結果巨大なネオコン新党が出来上がる。その時の党首は首尾良くいけば前原外務大臣だろう。前原は菅も仙谷も切り捨てるだろう。馬糞の川流れの所以である。

さてこうした考察をする上で参考になる記事を紹介する。田中宇氏のサイトなのだが、最新の記事の中に多くのヒントが載っている。ここでは9月7日に起こった尖閣諸島沖での中国トロール漁船拿捕事件について考察されている。とても優れた記事なので是非一読をお勧めする。次は田中氏の記事からの抜粋である。

なぜ日本政府は中国を怒らせるか。まず考えられることは、政官界や民主党内での対米従属派の巻き返しである。昨秋から今春までの鳩山政権下で、沖縄の人々は米軍基地に強く反対するようになり、米国自身も財政難がひどくなり、国防総省が米国外の軍事駐留に金をかけすぎていると、米議会で共和党オバマを批判している(軍産複合体共和党系なのに)。今後、不況の二番底が来て米政府が追加の財政出動をしなければならなくなり、財政赤字が増えるほど、米軍を日韓や欧州から撤退させた方がいいという議論が米国で出てくる。そのような状況になっても、日中が戦争寸前の状態になっていれば、沖縄の米軍は撤退せず、日米同盟に固執する日本の対米従属派は延命できる。

アメリカにとってどのような日本であって欲しいのか、といった視点で漸く全てをクリーンに見渡すことが出来る。アメリカはオバマ政権の凋落傾向に歯止めがかからない状態で、今や保守ポピュリスト運動のティーパーティーと呼ばれる極右系の台頭が著しい。彼らティーパーティーにはブッシュJr.時代のネオコン派も多く混入している。また近々景気の二番底がいよいよ抜けるのではないかとの危惧もある。当面アメリカが日本に期待しているのは金である。

米国が日本を誘って中国と敵対させている場合、日本側のエージェントとして最も可能性が高いのが、国土交通大臣として海保を管轄し、米国の政策決定者たちと深い関係を持つ前原新外相である。今回、前原は外相になるが、これは日本が中国との敵対を今後さらに強めていくことを意味している。親中派の岡田を外して前原を外相にしろ、という米国から菅首相へのメッセージがあったのかもしれない。岡田は抵抗したが、菅から命じられて外相を下ろされ、代わりに対米従属色が強い前原が外相になった。

菅政権は現在のアメリカの為にあり、前原は将来のアメリカの為にある。

昨秋来、鳩山と小沢から冷や飯を食わされ、中国大使だけでなく、米国大使まで外務官僚ではない人物にされそうになっていた、対米従属の総本山である日本外務省は、前原の外相就任で、一気に息を吹き返しそうだ。初の民間起用の丹羽駐中国大使は早期に辞めさせられるかもしれない。米国の軍産複合体の意を受けた前原は、どっちつかずの菅首相を手玉にとって、青年将校的に、中国を怒らせる隠然と好戦的な反中国政策を次々に放ち、その分前原は対米従属のマスコミにも礼賛され、菅政権は実質的に前原政権になっていく可能性がある。前原がうまく扇動をやれれば、次期首相になれる。

さて、話は菅政権に戻る。この政権は元々短命を宿命づけられた政権である。参院で与党少数の為法案自体が通らない。参院で否決されたら法案などお終いである。菅はそれを政策ごと話し合いをして解決していくという。それは菅が野党であった民主党代表時の所謂金融国会において、政局にしないことを条件に野党案を当時の小渕首相に飲ませたことを成功実績として挙げている。だから話し合いで解決することは可能だという。

しかし、それでは菅は例えば予算案を政局にしない代わりに野党自民党の予算案を丸呑みすると言っているようなものである。これでは政権の存在理由そのものがなくなってしまう。結局菅は総辞職か総選挙を選ばねばならなくなるだろう。これを回避するのは自民党との吸収か合併しかあり得ない。そうなってしまうともはや前原以外に担ぐ政治家は見あたらない。外務大臣はさしずめ小池百合子だろうか。これは正しく悪夢である。

ここで今日の結論を述べる。つまり菅政権は前原誠司による従米隷属政権を生む為の母体としての役割でしかない。前原は今ひたすら菅政権に於いて養分を吸っている。幼虫が成虫に変態する過程の重要な位置にいる。やがてすぐに機は熟し、環境が整い、幼虫は成虫になる。成虫は約束の地のためにひたすら日本を売り続けるだろう。そして日本人は残念ながらそれを指をくわえて見ているしかないだろう。先の田中宇氏の記事の最後には、「中国と対決姿勢をとったまま米国に見捨てられた後の日本がどうなると予測されるかは、気が重いので書きたくない」とある。たぶん田中氏が書かなくとも近い将来それを見ることが出来るだろう。