参議院選挙の憂鬱

いよいよ明日、参議院選挙が公示され選挙運動が始まる。相変わらず選挙カーを走らせて候補者の名前を連呼するわけで、うるさくて仕方ないのだが、あれが選挙運動というものらしい。選挙管理委員会が言うには、うるさいのはわかるが候補者も一生懸命なので期間中は協力して欲しいという訳で、普段から民主主義だの何だの偉そうなことを言っているが所詮この程度のものである。全くして選挙期間などくだらない。公示して即投票にしてみろと悪態をつきたくもなるのである。

さて、選挙となるとどの政党や候補者に票を入れるべきか考えなければならないのだが、今回は相当微妙な問題だ。というのも、現在の菅政権というものにうまく馴染めないからである。

昨年劇的な政権交代劇を演じてみせた民主党ではあるけれど、首相となった鳩山由紀夫がよく訳のわからない理由で退陣してしまった後、菅直人が首相となり、鳩山政権の理想主義ともいえる昨年度のマニュフェストから、肝心の理想を徹底的に修正した超現実主義的マニュフェストを掲げるようになった。

菅政権では、取り調べの可視化も後回し、子供手当も見直し、高速道路無料化も棚上げ、八ッ場ダムは工事続行、日本航空には更なる追加政府保証融資、そして消費税アップまで視野に入れるという、もはや自民党が復活してしまったかのような政策への変更が既定路線となっているようだ。

これは鳩山政権が分配を重視した友愛路線だったことで、主として財務官僚が反発し、それに答えて菅政権は財務省主導型の成長路線をとったということのようである。

この対立は、いわゆる角福戦争当時の田中派と福田派の対立が再現されたようなもので、田中角栄が唱えた「日本列島改造論」という中央から地方へと税を分配する「中央」対「地方」という構図を、「高所得者」対「低所得者」、或いは「正社員」対「非正規社員」などといった対立に置き換え、そこを昨年の政権交代時のマニュフェストで民主党は弱者の保護として前面に打ち出して成功したのである。これはもちろん田中派直系の小沢一郎という政治家が民主党の中枢にいたからこそ実現したマニュフェストだったと思う。

しかし、その鳩山政権が倒れると、次に出来た菅政権は徹底した鳩山ー小沢色のパージに乗り出し、その政策も福田派ー森派へと続いた清和会お得意の成長路線を唱えだしたのである。その主要三本柱は「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」というものに替わった。それは特に経済を強くすることで財政を立て直し、社会保障を充実させるという趣旨のようである。

経済を強くするために必要なのが、企業への様々な優遇処置であり、その優遇処置の恩恵で企業は設備投資を行い、雇用を増やし、最終的に景気浮揚が達成出来るという理屈だ。そして優遇処置の具体的な方法はどうやら法人税の低減らしく、減った法人税収入の穴埋めのために消費税を上げようという目論見らしい。

さすがに菅総理もそこまであからさまには言っていないのだが、何よりも経済の立て直しを優先させたい、と所信表明演説でも言っている訳で、消費税アップの目的もそんなところにあるのだろうと勘ぐられても仕方ない。

昨年の政権交代で、小泉ー竹中政権以降閉塞してしまった日本の状態を変えて欲しいと日本中が熱望したわけだが、1年もしないうちに再び小泉ー竹中の新自由主義路線がお題目のように唱えていた「改革なくして成長なし」という論調が「成長なくして分配なし」と微妙に変化し再び頭をもたげてきたようで、何とも居心地が悪いのである。

鳩山ー小沢から菅ー仙谷ー前原ー枝野ー野田ー玄葉へのシフトが、ここまでハッキリと路線変更を伴うものになるとは正直言って驚いてしまった。「分配」が先か「成長」が先かという違いなのだが、これは歴史的に自民党内での対立だったのが、何時の間にやら民主党内での対立となって、自民党はいよいよお役ご免となったようである。

そしてここに、次の参議院選挙でどう投票したらよいのか悩んでしまう原因があるわけだ。今の世の中で望まれているのは、まずは分配だろうと思うのだ。それは砂漠で遭難した人を見つけて、最初に水を差し出すか、仕事を与えるかの違いである。まず水を飲ませ体を回復させてから仕事を世話するのが筋だろう。しかし現状の菅民主党はまず仕事を優先させる成長路線派である。確かに最初の水を与えるようにも経済の調子が悪すぎるという理屈もわかるが、それで国民がついてくるのだろうか。

また今後の日本の経済成長は政治主導では成し得ないと思っている。厳しすぎる規制と役人の民間への天下りが世界の時流にそぐわない旧商習慣を強固なものにし、民間での世代交代を阻害していると思うのだが、規制緩和天下りの廃止も菅政権のマニュフェストでは触れられていないのである。

だからといって分配派に投票しようとしても、それもやはり民主党内にいる。個々の議員の誰が分配で、誰が成長なのかなんて分かるわけがない。そんなわけで選挙カーの拡声スピーカーに耳を塞ぎながら、早く選挙など終わって欲しいと願う毎日となりそうなわけである。

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