マスコミが見る豚のケツ

先週気になった3つの事件について感想を述べようと思う。

1月10日、サンデープロジェクトというテレビ番組の中で起こったことは、ネットの中で疾風の如く駆け抜けた。要するに、小沢一郎民主党幹事長の政治資金管理団体陸山会」の収支報告書に、小澤一郎氏からの4億円の借入れの記載が2004年度の官報にあったという事実を、郷原信郎氏が初めてマスメディアで発表したのである。

今まで陸山会の収支報告書に4億円の記載がなかったことを、マスコミは「不記載」だの「虚偽記載」だのとはやしたて、東京地検特捜部は元秘書だった石川参議院議員を事情聴取し在宅起訴する見通しであり、さらには小沢一郎民主党幹事長からも事情聴取を行う方針であると、関係者の話で明らかになっていると大きなニュースとして世間にばらまいてきたのである。

ところが、先週末頃から、陸山会の収支報告書は官報によって一般公開されていて、その中に小澤一郎からの4億円借り入れ記載がちゃんとあると言う事実が一部ネットの中で発表された。マスコミは自分たちが騒いでいる陸山会の収支報告書を調べもせず、関係者が言っているからと有り難そうに記事にしていたわけであり、こういうのを関西では「阿呆が見る豚のケツ」と呼ぶのである。

サンプロ小沢氏団体4億円不記載虚偽報道公開 (植草一秀の『知られざる真実』)
郷原信郎元検事がテレビで「官報」の件を指摘し騒然 (低気温のエクスタシーbyはなゆー)
虚偽報道してでも小沢さんをおろしたい? (billabong)

2つめは、藤井前財務大臣の後を受けて財務大臣に就任した管直人財務大臣が、円は高すぎると発言した結果、円ドル相場が円安に誘導された件で、財務大臣という公人が滅多なことでそのような口先介入をするべきではないという論調が一斉に張られたことである。

このような口先介入はアメリカの前中央銀行議長(FRB)グリーンスパンが得意にしていた技であって、アメリカはグリーンスパンの口先だけで相場を自在にコントロールしていたのである。一方でそのような技を持たない日本の大蔵財務大臣は日銀による市場介入を望むしかなかったのだ。しかし日銀の市場介入というものは外貨準備の切り崩しや増し積み、政府短期証券の発行などのオペレーションを伴うものであり、これらはタダでは出来ないものばかりである。

それを管財務大臣はほんの数語の言葉で日銀によるオペレーション何十兆円分もの効果を上げたわけだから、そこはちゃんと評価して然るべきなのだが、どういう訳か報道は非難一色である。どこぞの冷遇された官僚が恨みがましくほざいた言葉をそのまま記事にしたのではないかと勘ぐりたくなるほど低レベルの論調ばかりだ。

最後は日本の調査捕鯨船シーシェパードという反捕鯨活動家団体の抗議船が突っ込み海上で大破した事件である。どのような理由にせよ暴力に訴え出る行為というものは認めてはならないわけだが、日本の報道では当初シーシェパードの暴力行為を肯定するオーストラリアの声を多数紹介していた。その後修正が入り、オーストラリアの穏健派の声も少し報道されるようになった。また国内では調査捕鯨船擁護の声ばかりがクローズアップされた。

引っかかるのは調査捕鯨擁護の声である。調査捕鯨なんぞは水産庁天下り団体である日本鯨類研究所という財団法人が行っているものである。また鯨肉を食するのは日本の文化だという論調にも無理がある。鯨肉を食する日本文化というものももはや滅多に見ることはない。たまに飲み屋のメニューの端にひっそりと書き添えられている程度である。これが文化ならイナゴを食べることだって文化だろう。

日本が国際的に主張するべきことはそのようなことではなく、日本の調査捕鯨IWCの協定で決められた調査捕鯨枠を守った合法的な活動であるということであり、シーシェパードが行った行為は抗議ではなく暴力であり違法なのだと訴えることである。英語圏アングロサクソンに文化論をぶつことなど全く無意味であることを思い知った方がよい。彼らは個人としては文化の違いを理解しても、集団となると絶対にわかろうとはしない。逆に日本人は文化論に弱い。これは文化だからと言われると黙ってしまう。

そして国内的には、調査捕鯨の実態をもっともっと公開するべきなのだ。財団法人日本鯨類研究所とは何かを明らかにするべきだ、と思う。この機会に調査捕鯨とは何か、そのシステムを調べ、どういう訳で論拠薄弱な文化論が持ち出されるのか明らかにすることが報道の役目だろうと思う。文化論の影に役人天国が隠されているのではないのだろうか。

そのような僕の意見とは少々違うのだけれど、下の動画はオーストラリア側の言い分である「鯨は知能の高い動物であるから殺戮するべきでない」という論旨を町山智浩が論破するシーンが見事である。(始まってすぐ1分あたりから始まる)

先週起こった3つの件は、再び日本人のマチュア(成熟)を考えさせるきっかけになった。報道というものを鵜呑みにしていると、とんでもない方向にミスリードされてしまうことを肝に銘じなければならない。

最後におまけとして、日本から各国のジャーナリズムが撤退していることを報じるニュースを紹介しておこう。日本発の国際ニュースなど二度とあり得ない状況を肝に銘じた方がいいだろう。記者クラブなどに拘ってマスコミが既得権益を死守した結果がこれである。残念ながらもはや日本は二流国なのである。僕たちに出来ることは、せめてマスコミの見る豚のケツを一緒に見ないように心がけることくらいかも知れない。

経営不振に記者クラブ問題 海外メディア続々「日本離れ」 (J-CASTニュース)

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