高速道路無料化による国交通省経済効果試算の驚くべき事実

僕は8月9日(日)に民主党衆議院議員の馬渕澄男(まぶちすみお)氏のシビックミーティングに出かけた。その時のことはこのブログでも報告している

そのシビックミーティングで馬渕氏は講演を行ったのだが、その中の一説を再びここに書き出してみよう。

高速道路料金の無料化によって、一般道の自動車が高速道路に入ることになり、一般道の渋滞が緩和され、このことによってCO2の排出量が削減されることが国土交通省の資料によって明らかにされている。また、物流コストが10%低下し、小売価格に反映されることになる。(拙ブログより)

上記は馬渕氏の言葉そのままではなく、講演を聴いた僕が書き留めたものである。大体内容はあっていると思うのだが、ここで気になるのは「国土交通省の資料」という部分である。

馬渕氏によると、高速道路通行料無料化による一般道の渋滞緩和とか、CO2排出量削減効果、そして物流コストの削減による小売価格の低下など、これら全ては国交通省がシミュレーションした結果裏打ちされたのだ、ということだった。

しかし、ネットなどでいくら探してもそのような資料は出てこない。一般の目に触れないように資料が隠されているのか、或いは馬渕氏の勇み足なのか、と思っていたら、朝日新聞のサイトでドカンと出てきた。

高速無料化の経済効果 国交省、一転試算認める (asahi.com)

まず最初に情報の隠蔽を指摘されている。

 高速道路を無料化した場合の経済効果について国土交通省が2年前に試算を行っていたことが明らかになった。一般道の渋滞が解消されることなどから、直接の経済効果を2.7兆円と見込んでいる。これまで政府は「試算は存在しない」として隠してきた。民主党の公約に有利な結果だったため、公表しなかった可能性がある。
試算は07年度に国交省国土技術政策総合研究所が実施した。政府が08年度以降に検討していた高速料金値下げの影響を調べるためだった。だが、政府は国会答弁や質問主意書への答弁書などで高速道路無料化の経済効果に関する試算について「国交省が取りまとめたものは存在しない」などと存在を否定してきた。
 朝日新聞の取材に対し、同省道路局は試算の存在をこれまで認めてこなかった理由について、「『検討段階』だったため」と説明している。 (asahi.com)

自民政府の指示だったのか役人根性だったのか、民主党に有利なものは隠しておけ、ということだったのだろう。資料を隠蔽し民主党はおろか国民をも欺こうとしていたわけで極めて悪質である。

そしてその内容だが、結論から言うと馬渕氏の言うとおり民主党の主張を裏付けるものとなっている。先ずは全体の経済効果から。

 高速道自体の経済効果は、渋滞増加などで年間マイナス2.1兆円となるが、車が流れやすくなる一般道が4.8兆円のプラスとなり、差し引きで「2.7兆円の効果が生じる」とした。利用者の料金負担の軽減分などを加味した別の計算方法では、経済効果は7.8兆円に達した。(asahi.com)

2.7兆円から7.8兆円もの経済効果があるというわけである。これだけの経済効果のある施策を否定した麻生政権は14兆円に及ぶ補正予算を経済効果のためという名目で借金で補ったことを忘れないようにしよう。

次にCO2(二酸化炭素)について。

 高速道と並行する国道の通行量が減ることで二酸化炭素(CO2)排出がどれだけ減るかも試算したところ、割引前の1.8%減にあたる310万トンの削減となった。ただ、高速道の通行量が増えたり、鉄道やバス利用からマイカーに切り替えたりすることによるCO2の増加量は試算しておらず、差し引きのCO2の増減効果は不明だ。(asahi.com)

ここでも馬渕氏及び民主党の主張が裏付けられている。つまりCO2は一旦は減るのだ。

これは特に地方などで、今まで高速道路を使わなかった層が無料化により高速道路を使うようになると、一般国道の通行量がその分減るので渋滞が緩和され、その結果CO2が減るのである。勿論、無料化となった高速道路へ流れる車の増加分のCO2は増えるのだが、自動車燃費を調べたことのある人なら誰でもわかるとおり、高速道路よりも渋滞にはまった一般道の方が燃費が悪化しCO2の排出も増えるのである。

そして次に渋滞に関してである。

 無料化した後の高速道の混雑度についても予測。通行量が道路の許容量をオーバーし、慢性的に激しい渋滞が起きやすい「混雑度1」を超える区間は高速道全体の21%にあたる1580キロとなった。広域で渋滞が起きると予測されているのは東京外環道、東名高速名神高速東名阪道など。東北や北陸、四国などは混雑度は低いものの、地方の中核都市周辺や2車線の道路は混雑が予想されている。 (asahi.com)

高速道路無料化によって、今まで不本意ながら高速道路を使わなかった人達も頻繁に使うようになる。その結果高速道路の通行量は増加するから、従来より渋滞しやすくはなるだろう。

しかし、忘れてはならないのは、この時一般道の渋滞は緩和されているかその傾向にあるわけである。今まで高速道路を使わなかった人達というのは、長距離を走る人ではなく、ほんの数区間利用する人達であろう。であるならば、高速道路入り口などにある渋滞情報などを最大限利用し、高速道路と一般道路のどちらが空いているかという情報を流せばよいのである。後は利用者次第である。

また、山崎養世氏(シンクタンク山崎養世事務所代表)が以前に日経ビジネスオンラインに寄稿した文章が、今では登録なしに読める。

高速道路無料化が実現しない本当の理由 民営化で状況は逆に悪化した (日経ビジネスオンライン=Report)

ここでは高速道路民営化がどれほど欺瞞に満ちた政策であったかが告発されている。また、同じ山崎氏が先日ビデオニュースドットコムに出演し、「高速道路無料化のすべての疑問に答えます」と話をされていた。これは有料放送であるが、梗概は以下のホームページで読むことが出来る。

高速道路無料化のすべての疑問に答えます (ビデオニュースドットコム)

ここでも先の朝日新聞で報じられた国交通省の隠蔽されていた資料を裏付ける意見が出されているのだが、高速道路民営化と併せて財政再建の面からも説明されている。

現在進行している民営化策では新たな借金で道路を作り続けるスキームが残されているため、無駄な道路は作られ続けることが可能だと言う。それをやめさせるには料金収入を断ち切るしかない。つまり、無料化こそが有効な財政再建策になる(ビデオニュースドットコム)

そして何よりも重要な意見は下記の部分である。

 つまり、高速道路の無料化論は単なる利益や便益の向上を目的としたものではなく、これまでの外需中心の工業化社会から、地域振興、農林水産業の発展、観光、教育の充実など、内需主導のポスト工業化社会へ移行することを前提としているし、それを意図している。現在の体制を前提とした批判は、それ自体に意味が無いというのが、山崎氏の基本的な考え方だ。
 日本がこれから豊かな先進国になっていくためには、工業化の象徴とも言うべき東京一極集中を解消し、人を分散させ、時間と空間にゆとりを持たせることが不可欠であり、そのようなグランドデザインを実現するために高速道路の無料化があると山崎氏はいうのだ。(ビデオニュースドットコム)

自民党を中心とした政権が、ここ数年失敗し続けていた政策は色々あるけれど、その最も悲劇的なものは「内需の拡大」が成し遂げられなかったことである。

日本は加工貿易国、或いは工業国であるということで、輸出産業を中心に経済政策を作ってきた。しかし、リーマンショックで最も株価を下げたのは実は日本だったということからもわかるように、外需依存の産業構造は国外での事故に極端に弱い。

内需を振興させることにより(特に地方に於ける)雇用の増大や、税収も見込まれる。鳩山新政権にとって最も大事な構造変化の転換点はここにある。これを成し遂げられるかどうかで、民主党政権だけではなく、日本という国がこのまま先進国でいられるかどうかという未来そのものが占えるのである。

高速道路通行料無料化はまだ体制変化の入り口に過ぎない。この先には内需振興という大事業があるのだ。反対しているようなものはさっさと切り捨て、スタードダッシュで置き去りにして不都合はないだろう。