奈良市市長選挙に於ける光と影 後編

奈良市市長選挙に於ける光と影 前編

14日、投開票が行われた千葉市市長選挙に於いて、民主党推薦の前市議会議員・熊谷俊人氏が当選確実となった。熊谷俊人氏は元市議とはいえ31歳の若さである。31歳の青年が市長を目指し選挙に打って出る、という話は美しいが海千山千の市議会を相手に彼がどれほどのことが出来るのか疑問であり、僕は千葉市市長選挙民主党の負け戦だろうと思っていたのだが予想は裏切られた。こうなると事前の予想など何のその、自分など何の関係もないのにちょっぴり嬉しく思ってしまう。

さて、7月12日に投票が行われる奈良市市長選挙に於いての民主党推薦候補・仲川げん氏も33歳の若さである。彼に対しても熊谷俊人氏と同じく、33歳という若さであの市議会を相手に丁々発止の議会運営が出来るのかどうか疑問を持っている。しかも熊谷俊人氏とは違って市議の経験もない。しかしながら14日の千葉市市長選挙の結果を見て、ひょっとすると彼にも風が吹くのかも知れない、と思うようになった。

ナニワ金融道」という漫画があり、その中で政治家になって金を儲けたかったら市議会議員になれ、という台詞があった。県議会より市議会の方が、公共工事に直接関与する機会が多いから議員になったらいっぱい抜けるぞ、という意味である。

今、奈良市では来年に行われる遷都1300年祭に向けて道路拡張や鉄道の高架等公共工事のオンパレード状態になっている。市の中心部の主要道路は迂回に迂回を強要し、周辺建物は立ち退き撤去され、常に工事車両が出入りし、砂埃があちこちに舞い上がるカオス状態となっている。

奈良市には3000億円近い借金があり、全部を返済するのには30年以上かかると言われている。それにも関わらず毎年新たに200億円近い借金が新たに増え続けている状態である。景気の状態は日本全国で下から数えた方がはやい位置にあり、商店街を歩くとシャッターは閉じられたまま、飲食店も撤退や閉店が相次ぎ、市内にある大手デパートも全フロアが埋まらずベニアで囲った一角が多数ある。福祉予算は削られ、老人へのバス乗車料金も以前より割引額が減った。

今、景気の悪化した街を見学するのなら奈良市に来ればよい。景気の悪化を救えず、公共事業にばかり熱心な地方都市の典型的サンプルを見ることが出来る。何せホテル誘致に失敗したという理由で市長が辞めなくてはならないような所である。そのせっぱ詰まった雰囲気が分かるだろうか。

さて、仲川げん民主党衆議院議員・馬渕澄夫の後押しを受けている。馬渕澄夫との間にどのようなコネクションがあるのかは分からないのだけれど、今や民主党の次世代リーダーと目される議員な訳で、この後押しは随分と強力だろうと思う。

その仲川げんと馬渕澄夫の二人が街頭演説を行った。もう1週間ほど前のことである。よく利用する大型デパートの前ということもあって、買い物がてら聞いてみることにした。
午後2時過ぎから3時半頃まで、二人は交差点の安全地帯で演説をする。馬渕澄夫が10分ほど話し、次に仲川げんが10分ほど話す。このサイクルを交互に続けるというスタイルである。

暫く聞いて感じたことは、馬渕澄夫と仲川げんの演説は、余りに格差があるということである。馬渕澄夫はまず国政の話をする、小沢一郎元代表の進退の話をする、そして地方行政の話をする、といった具合に聴衆を飽きさせない。その話のどれもが自分の実体験を元にしたオリジナルの話であって、どこかからの受け売りではない。声も張りがあるし、聴衆の顔を見ながら喋る。

一方の仲川げんは、演説慣れをしていないことが明白で、直立不動のまま何度も同じ話を繰り返しているようだった。内容は乏しくはないが面白みがない。このあたりが新人の弱さだろう。

この日の二人の街頭演説を聴いて印象深かった内容は、奈良市発注の公共事業は市議会議員に関連のある建設会社が受注することが多く利益誘導型である、そして国政で国民へのサービスについて何か決めても、そのサービスを実際に施すのは市政であり、その市政が違う方向へ進んだら国政としては何も出来ず後の祭りとなる、という点だった。

前者に関しては多くの市民が既に気付いている点であり、日本の地方行政の悪習の代表的なものである。例えば神戸市が市営の新空港建設を行った時、埋め立てに使う土砂は市議会議員所有の山などを削って賄われたと新党日本代表の田中康夫によって暴露されている。この場合の議員は市から土砂代とその運搬費用を支払われるわけであり、莫大な利益を享受できる。勿論このお金の源流は税金である。そしてこのようなことは地方行政に於いては日常茶飯事なのである。

後者の国民への実際の窓口は市政になるというのも本当の話である。非難囂々の中強行された定額給付金も、国が給付を決め、実際に支払い業務を行ったのは市政である。定額給付金は大々的に宣伝され、その金額まで詳しく国民は知っていたのだが、中央から地方に降りてくるお金で、国民が詳しく知らない内容のものは多い。というか、殆どの国民は中央から降りてきたお金の行き着く先について、本当のところは分からない。

国政については連日新聞やテレビも様々な偏向を加えながらも報道はするし、ネットなどを見ても全国的に意見を拾うことが出来るが、地方行政になるとその地方のみの報道やネット情報を探さねばならない。そして地方の情報量は国政とは比較にならないほど少ないのが現実である。しかし、地方行政こそが本当の行政サービスの窓口であって、ここで間違いが起こるとそれは直接市民に跳ね返ってくるのである。

エントリー前編でも書いたように、奈良市市長選挙自民党推薦の鍵田忠兵衛民主党推薦の仲川げんの戦いになるようである。藤原市長の残した多額の負債と、終わりの見えない公共工事、切り捨てられた老人福祉など、次の市長に残された課題は大きい。市議会には公共事業を請け負う建設会社に関わりの深い議員が多くいる。これら魑魅魍魎達と市長は渡り合うことになるのである。

ちょっと立場は違うが、長野県政に於いて容赦ない改革を行おうとした田中康夫が、何度も議会に吊し上げられ、挙げ句の果ては自民党議員が経営陣に名を連ねる信濃毎日新聞などに反知事キャンペーンを張られ、最終的には落選してしまったように、地方行政は利権を持っている者が異分子を情け容赦なくな排除する構造が出来上がっている。彼らはそのためには手段を選ばないこと国政以上である。

鍵田忠兵衛という2世であり、数年前に脱税疑惑党で不信任を突きつけられ選挙で落選し、そのあと郵政選挙刺客候補となって郵政民営化を唱え、小選挙区で落選するも比例区で復活当選した海千山千の元市長を返り咲かせるか、或いは市政に対して何の経験もないまだ33歳の青年を育てながら市長として登用するのか、奈良市民としてはとても複雑な思いを抱いて市長選挙を迎えることになる。

折しも毎日新聞が13〜14日に実施した世論調査によると、鳩山総務大臣更迭の煽りを受けてか、麻生政権の支持率が危険水域を割ろうとしていることが判明した。マスコミの行う世論調査などそれほど当てにはならないけれど、全体の方向性を推測する参考にはなるだろう。この追い風を仲川げんはどれほど自分のものに出来るのだろうか。